Road To 出雲 第四弾

カテゴリ
 RUN
開催日
2005年12月03日()

吉田は海の男である。一年の殆どを、貨物船に乗って海の上で過ごす。陸に上がるのは、一年に2回、多くても3回ほど。1回の休暇は、1ヶ月ほどである。吉田には、妻と一人の息子がいる。いつも、この愛する二人に会うことを楽しみに仕事に精を出しているという。陸に上がる時は、家族に会えるので嬉しく、逆に船に戻る時は短くて4ヶ月、長くて半年も会えなくなるので、胸を引き裂かれるような悲しさや寂しさを味わうという。

船での労働は、過酷である。一日の3分の2は、何らかの業務に携わっているという。海の上では、船が動いている以上、休憩は寝る時ぐらいしかない。勿論、海の上では休日なんてあるはずもない。漢塾一の高給取りは、並々ならぬ苦労をしているのだ。

そんな吉田の貴重な休日の一日を出雲ランのために使ってくれるという。年に2ヶ月しかない休日のうちの一日である。私達のような週休2日で祝日が休日である者とは、休日の価値が違う。本来ならば、この休日は愛する家族と一緒に過ごすために使うべきものなのだ。私は、愛する家族と一緒に過ごす時間を削ってまで出雲ランに参加してくれた吉田の気持ちが嬉しかった。あの寡黙な顔の下に隠した熱い思いを私は知っている。第一弾出雲ランで見せてくれたあの熱い魂の走りは、様々なものを背負いながらも決して止まることなく前進し続ける吉田の生き方そのものだったのだ。今回も完走は間違いないなんて考えるのは野暮だ。この男なら足が折れたって完走するだろう。それよりも、吉田には、見る者の魂を揺さぶる熱い走りを期待する。お前ならできる!重たかろうけど、様々なものを背負って走れ吉田!

今回は、約140㎞離れた前回の終了地点まで行かなければならないため、午前7時から走りだすには、午前4時に出発しなければならない。そのため、午前3時に起床したのだが、2時間しか眠ってないので、激烈に眠たかった。それでも、前々回遅刻者の小野に電話を忘れずにした。ところが、いくらコールしても小野は電話に出ない。5分ほど経って、もう一度電話したが、同じことだった。「こいつは、まだ寝とるんやろうか?」と小野のことを疑いながらも、そればかりに構ってもいられないので、「まあ、どうにかなるやろう。」と気持ちを切り替えて出仕度をする。

そうすると、すぐに小野から電話がかかってきた。どうやら、私が電話するより、かなり前に起きていたらしい。どうしたことだろう?寡黙な男の吉田の参加が小野に喝を入れたのか、それとも前回の反省からか、なかなか気合いが入っている。この調子なら、この男のポテンシャルを余すことなくランで発揮できるに違いないと思った。

全員、時間どおりに集合場所に集合して、予定どおり午前4時に出発。前回の終了地点までの長いドライブが始まった。ドライブが始まると、岡田を除く3人は眠ってしまったようで、車の中は私と岡田の話す声しかしなかった。外はまだ真っ暗である。出発して30分もすると、話相手の岡田も眠りに落ちてしまう。話相手がいなくなると、途端に眠くなるもので、車中の暖かさと、2時間しか睡眠をとってなかったせいもあって、猛烈な睡魔が襲ってきた。何度も車を停めて30分ぐらい仮眠をとってやろうかとも考えたが、そんなことをしている暇はないので、しばらくは、我慢して運転し続けた。

しかし、いくら気を張らせていても睡魔が去る気配はないので、「これはいかん!」と思い、通りがかりのコンビニでコーヒーと眠気覚ましのガムを購入した。それらのものを購入したおかげというものもあったが、外に出た時に冷気の中で何度も深呼吸をしたので眠気も覚めた。おかげで、目的地の分かりにくさから通り過ぎてしまったものの無事、予定より30分早く目的地である前回の終了地点に到着することができた。

前回は、まだ秋だったので、スタートする時は明るかったのだが、今回は冬ということでまだ暗く、しかも風があってとても寒い。やる気のおこらないというか、何もやりたくない状況ではある。しかし、寒いぐらいの方が走るのには丁度良いのだ。暑い中を走るよりは、体力の消耗も少なくてすむし、汗もあまりかかないので汗臭くならなくてすむので、良いことづくめだぞ!と塾生達に言い聞かせて、塾生達のやる気を促した。

051203_0657_00スタート予定時刻より、かなり早く到着したので、腹ごしらえも体のアップも十分にするだけの時間があり、スタートの5分前には、皆いつでも走れる状態になっていた。予定時刻の2分前に前回の終了地点をスタート。出雲ランの第四弾が始まった。

今回の目的地は「道の駅きらら多伎」である。ここは、出雲大社から目と鼻の先である。ここまで辿り着けば、出雲ランは9割方終わったようなものだ。しかし、そこまでは約50㎞の距離があり、前回同様に過酷な道程が予想される。また、ここは私にとっても出雲大社に参拝する時にいつも寄る道の駅であるし、自転車で出雲大社まで行った時も寄った思い出の道の駅でもあるので思い入れは深い。まさに私にとっては、最後の中継地点とするのにうってつけの場所なのである。

051203_0743まずは、スタートしてから6㎞地点で皆を待つ。小野を筆頭に山ちゃん、岡田、吉田と続くが、吉田を除いては皆、足を止めることもなくそのままスルーしてしまった。これまでと違って、気温が低いので汗のかきようが少なく、水分補給の必要がなかったみたいである。

これまでは、短くて4~5㎞、長くて6~7㎞間隔ぐらいで給水をしていたが、これを見て、もっと間隔を長くしても良いと判断し、8㎞から10㎞ぐらいの間隔で給水をすることにした。というわけで、吉田が走り去ってから、10㎞ぐらい進んだ場所で給水してやろうと思ったのだが、5㎞進んだところに、見晴らしが良く、車を停めるのに丁度良い場所があったので、つい車を停めてしまった。

車を停めてすぐに小野が来たが、勿論、給水しないでスルーした。今回のランに臨むにあたり、小野は宣言していた。一切、給水することなく最初から最後まで全力で走りぬくと。それを聞いて私は、「好きにしろ。その代わり給水せんで体の調子が悪くなっても自分の責任やからな」とだけ小野に言っておいた。 歩くのも速く走るのも、給水するもしないも自分の勝手。ただし、体調の管理は自己責任である。無事ゴールするためにも、楽しく帰路に着くためにも、それだけは徹底してやってもらいたい。

051203_0820_00丁度、朝日が昇り始めた頃に山ちゃんが来たが、山ちゃんも小野と同じくスルーした。スタートしてから、もう10㎞以上走っているのに喉が渇かないのだろうか?この寒さと、乾いた空気のおかげで喉が渇きにくいというのもあるかもしれないが、他人事ながら気にはなった。その後、給水ポイントには岡田、吉田と続く。両名とも長く休憩していては寒さで体が硬直するからか、給水したらすぐに行ってしまった。ここまでは、全員そう大した差はついてなかったが、ここから先は差が着くことが見込まれる。

給水ポイントに最初に来る者と、最後に来る者との間には、かなりの時差があるので給水ポイントで待つ時間が長くなる。暇つぶしの本でも持ってくれば良かったと後悔したが、そこは前向きな私のこと。その間に、睡眠不足を解消するために眠ってやろうと考えたのだった。

051203_0853_00前の給水ポイントから離れること約8㎞。丁度、小野を抜かし去ったところに、車を停めるのに良い場所があったので、そこを給水ポイントにすることとした。もしかすると、給水するかもと思い、小野の前に車を停めたのだが、小野は「いいですから。」とだけ言って走り去ってしまった「何かあったら連絡くれよ!」とだけ声をかけて、小野とのわずか何秒間かの再会を終えた。しばらく小野の後姿を眺めていたが、まさかこれが小野との最後の再会となるとは夢にも思わなかった。

その後、小野から遅れること30分で山ちゃんが、それから2分後に岡田が給水ポイントに到着した。二人は、これが遅めの朝飯とばかりに、バナナやら菓子パンやらをガっついていた。その姿を見て私も安心した。やはり、夏場より体力の消費が少ないとはいえ、50㎞近い長丁場を走るのだから、無理をしてでも水分や栄養補給をしておかなければならないと思うからである。

051203_0921それにしても、スタートしてから19㎞以上走っているのに、山ちゃんは足が痛そうなそぶりを微塵も見せてなかった。私の経験上、この辺りでそろそろ足にくるはずなのだが、どうでもないのだろうか?気になって「足は大丈夫か?」と聞いたところ、まだ大丈夫ということだった。もともとポーカーフェイスで、ダイレクトに感情を表面に出さない山ちゃんだが、思ったことは素直に言う。その山ちゃんが、「大丈夫」と言うのだから、本当に大丈夫なのだろう。私の経験に照らし合わせて判断してはならない。これまでの3回にわたるランで山ちゃんは、確実に進化していたのだ。塾長の私としては、山ちゃんの進化を嬉しいと思う反面、山ちゃんと自分とのレベルが離れたことに焦りを感じずにはおれなかった。

051203_0955山ちゃんと岡田が走り去ってから20分後に吉田が到着。どうせ聞いたって「大丈夫です」ということが分かっていたから、あえて足の痛みがどうのこうのということは聞かなかった。疲れているからと思い、食い物を吉田にすすめる。吉田は菓子パンや菓子類には手を出さずに、バナナだけを黙々と食っていた。それだけでは足りないだろうと思い、菓子パンもすすめるのだが、吉田はそういうものは要らないと言う。バナナだけあればいいと言う。そう言って、もう一本バナナを食っていた。

今回のバナナは、普通のバナナとは違う。スーパーの果物売り場に売っている一番高いバナナを買ってきたのである。一房が普通のバナナの3倍は値段がする高級バナナだ。これも可愛い塾生達のことを思ってのこと。そのことを吉田も分かっていたようで、あの寡黙な吉田が「これ美味しいですね。普通のバナナと違いますね。」と、しきりにバナナのことを私にアピールしていた。私は、バナナに関しては相当うるさく、その知識に関しては評論家もできるのではないかと自負している。その私から見るに、吉田もバナナに関しては相当うるさいと感じた。よって、予算をケチって安いバナナを買わなくて良かった思ったのだった。

吉田は5分と休まなかった。吉田の、足を無理をして前に出すような走り方を後ろから見ていると、やはり足にきているのだということが分かった。一年の殆どを、海の上で過ごしており、運動を全くといっていいほどすることがないのだからそれも無理はない。そんな運動不足の状態でも、この40㎞超のランに参加するのだからその根性は見上げたものだ。しかも、弱音を吐かないときている。まったくもって吉田という男は、その寡黙そうな外見によらずグレートな男である。吉田の後姿が見えなくなったくらいに次の給水ポイントに向けて出発した。

051203_1050走ること約10㎞。太田市内に入ったばかりの道路脇に車を停めるのに丁度良い退避所のような場所を見つけたので、そこに車を停めて給水ポイントとした。小野と吉田の差は1時間以上ついていたので、この給水ポイントへ来るまでに小野の姿を見ることはなかった。小野のことだから大丈夫だろうと思い、まずはひたすら山ちゃんと岡田が来るのを待つ。ガソリン代節約のため、エンジンを切ってから待ったのだが、車内とはいえ寒い!寒波が山陰地方を襲っているらしく、2~3日前とは気温が全く違う。寒さに人一倍強い私でも、ジャージの上下にTシャツだけでは、寒さに負けそうになる。とても、睡眠不足解消のために眠るどころではない。このままでは、間がもたないので、仕方なく車外に出てスクワットをしたり、シャドウをしたりして体を温めた。

そうこうすること30分、ようやく山ちゃん達が来た。先ほどの給水ポイントで会った時と、様子は変わらない。2人とも黙々と走っている感じだ。岡田は、実力からいって、もう少しペースを上げても良いのではないかと、思ったが、岡田は、今回は山ちゃんのペースに合わせるぐらいで良いみたいであった。まあ、走るペースは個人の自由なので、私がそのことにどうこう言うことではないのだが。山ちゃん達は、軽く給水を済ませると、3分もしないうちに走り去った。寒いから、あまり止まっていたくないのだろう。

寒いと、休憩が短くなってしまう。ゆっくり休憩したければ、酷なことだが、走るのに集中したければ、結構なことなので、これが良いことか悪いことかはどちらとも言えない。ただ、言えるのは、気温によって走り方も休憩の仕方も変わってくるということだけだ。

051203_1126山ちゃん達が去っても、吉田はなかなか来ない。待つのは寒いし、だからといってスクワットやシャドウをやり続けるのにも体力的に限界がある。「頼むから吉田よ!早く来てくれぇ!」と心の中で叫びながらも、しばらくはやり続けるしかなかった。そうして、休みながらもやり続けること40分。ようやく遥か彼方に吉田が豆粒のように見えた。さすがに、足にかなりきているらしく、もう走ることはできてなかった。それでも、給水ポイントに到着する寸前には、無理して痛い足を上げて走って、まだ走れるということを私に強烈にアピールしたのだった。

あの寡黙な吉田が、なんともお茶目なことをすると思うと、寒風に吹きつけられ過ぎて凍てついていた私のハートも熱くなった。「なんてお茶目な奴なんだ!無理しやがってこいつぅ!」そう思うと、吉田に私が塾生達のためにとっておきの栄養補給食として購入しておいたベビースターラーメンをすすめずにはおれなかった。ベビースターラーメンは、私が好きなこともあるが、素早く食べられて、それでいて栄養価が高く、しかも消化が良くて腹持ちも良いという3拍子も4拍子も揃った、カロリーメイトと並ぶ高性能食品である。吉田には、これを食って、是非とも残りの20㎞を頑張って欲しかった。「さあ食え!」そう言って、ベビースターラーメン渡そうとすると、「僕はこれでいいですから。」と言って、またもやバナナを手にした。「お前、さっき2本も食ったのにまたバナナかよ!分かった!じゃあバナナと一緒にこれも食ってくれ。」とお願いしたのだが、どうしてもいらないと言う。吉田は以外と頑固だ。せっかく、塾生達のためにしこたまベビースターラーメンを購入したのに、誰も食ってくれないのは、残念だったが、ここは吉田の意見を尊重することにした。

それにしても、吉田のバナナを頬張る顔はナイスだ!これも、今までにバナナを何千本と食ってきた吉田だからできる顔であろう。吉田は、ここでもバナナを2本食した。バナナの数は十分あると思ったが、吉田の消費量が私の予想を上回るので、ゴールするまでに数が足りるか心配になった。無くなったら、コンビニで買えばいいだけのことだが、吉田がコンビニバナナを許してくれるだろうか?そんな私の心配をよそに、吉田は会釈をすると、少なくとも私から見えなくなるぐらいまでは、無理して走って行った。

小野にはもう追い付けないとしても、山ちゃん達には追い付きたいと、すぐに出発。車を走らせること5分、山ちゃん達を追い越した。山ちゃん達は、吉田の約5㎞先を歩いていた。そろそろ足にきたのだろうか。風もすごく強いので、非常に進み辛そうではある。車を停めて、声でもかけてやろうかと思ったが、中央分離帯があって結構交通量の多いところなので、やめた。

051203_1158そこから1㎞ほど行ったところに、見渡す限り平野の見晴らしが良い場所があったので、そこに車を停めて給水ポイントとした。ここで山ちゃん達を待つこと間、荒涼とした景色を見ながら考えごとをしていた。そうやって、ウトウト眠りかけた時に車の窓をコン!コン!と叩く音が。山ちゃん達が到着していたのだ。「ええっ!もう来たの?」と思ったが、先ほど山ちゃん達を抜き去った場所から1㎞ほどしか離れてないのだからそれも当然だった。

ここからゴールの道の駅きららまでは、約16㎞の距離。ここまで30㎞以上を走って来たのだから、さすがに山ちゃん達も疲れている様子だった。いくら山ちゃんが進化したといっても、岡田が日頃から走り込んで鍛えているといっても、これだけの距離は日常的に走ることはないので、疲れるのは当然である。しかし、この2人、安定感が増したので見ていてとても安心である。これも、これまでのランの賜物であるといっていい。

051203_1200疲れていたためか、山ちゃんと、岡田は比較的長く休憩をとって走り去った。山ちゃん達は、これが最後の休憩となった。残るは吉田である。山ちゃん達が去って、しばらくは眠ることなく、いつ吉田が来ても良いように気を張って待っていたのだが、さすがに待つのが40分を越えると、前日の寝不足がたたったということもあり、つい10分ばかり眠り込んでしまった。

ハっ!と目を覚まして辺りを見回すが、吉田の姿は前にも後ろにもない。この時、山ちゃん達が去ってから1時間近ぐらい経っていたので、山ちゃん達との距離を考えると、ここまで来てないのは、さすがに遅すぎる。まだここまで来てないのか、それともここを通過してしまったのかと、頭を悩ます。通過していたのなら追いかけなければならないし、ここまで来てないとしても、何かあったのではないかと心配である。どちらにしても追いかけなければならないのだが、問題は先にどちらに行くかである。通過していてくれた方が、追いかけるだけだから、いちいち行ったり戻ったりしなくてすむから楽なのだが、ここは念を入れて戻ってみることにした。

時間的に考えて、来た道を戻っても1㎞ぐらいと思ったのだが、1㎞を越えても2㎞を越えても吉田の姿を見つけることはできない。そのうち5㎞近くまで戻ってしまったので、吉田は間違いなく給水ポイントをスルーして先に行っていると確信し、Uターンをして吉田を追った。

051203_1318吉田を追うこと10分、先ほどの給水ポイントから2㎞ほど進んだところに吉田はいた。急いで、吉田の前に車を停め、吉田に話かけた。「お前、俺が車を停めとるの分からんかったん?」と。それを聞いて吉田は、「はぁ、分かりませんでした。」と答えた。嘘など、絶対につく男でないことは、こいつの顔を見れば分かる。よく分かる場所に車を停めたのに、それが分からずにスルーしたということは、それだけ走ることに集中していたからに違いない。ようするに、足が痛くて、車のことなど気にかけている状態ではなかったということだろう。

吉田がそのような状態にあることは、前々から分かってはいたが、ここにきて事態は深刻になってきていた。「思わず、足は大丈夫か?」と、また聞きそうになったが、どうせこの男は「大丈夫です。」としか言わないのが分かっているから聞くことはしなかった。お前は、何で、そこまでして走るんだ?どうしても痛みに耐えられないなら、止めてもいいのになどと、つい言いそうになったが、吉田にも意地がある。仮にそんなこと言われても歩みを止めるわけはない。この一見、寡黙に見える男は実は人一倍の負けず嫌いでもあるのだ。

051203_1322吉田は、「ゆっくりして行け。」という私の言葉を断って、バナナを一本だけ食って、すぐに去って行った。その行為からは、少しでも早く進んで、なるべく皆を待たせたくないという吉田の気遣いが見てとれた。実は、先ほどの給水ポイントで山ちゃん達が去って吉田を待っている間に小野から道の駅についたとの連絡をもらっていた。小野は、前回と同じく、吉田のところまで戻って一緒に走りたいということだったので、吉田の無事を確認次第、小野を迎えに行くことにしていた。

051203_1330小野から連絡をもらったのが、午後12時過ぎだったから、この時点で1時間以上待たせていたことになる。あまり待たせては、可哀相だと思い、急いで道の駅まで車を走らせた。途中、山の中を歩く山ちゃんと岡田を見つけて車を停めたが、給水は要らないと言うので、すぐさま走り去った。

051203_1343目的地のきらら道の駅までは、吉田に給水したポイントから15分あまりで到着した。早速、小野の携帯に電話するのだが、いくら電話を鳴らせども小野は電話に出ない。これはもしや建物の中で寝ているのかもと思い、道の駅の建物の中に入ったところ、やはり小野はロビーにある椅子に座って寝ていた。朝早くに起きて、48㎞もあるこの道の駅まで速いペースで走ったのだから、疲れて寝ているのも無理はない。起こすのは可哀相だったが、吉田のところに早く行かなければならないので、小野を叩き起こした。小野は、多少疲れているとのことだったが、まだ10㎞か15㎞ぐらいなら走れると言う。しかし、疲れているのに何でまた走らなければならないのだろうか?友を思う気持ちからには違いないし、大した行為だと思うのだが、思いやりのない人間の私には理解に苦しむところである。

051203_1426ともあれ、急いで小野を吉田のところまで連れて行くことにした。山ちゃん達は、丁度最後の10㎞はある道の駅きららまでに至る長い海岸線を走っていた。山ちゃん達が走っていたポイントからは、道の駅きららが見えるのだが、あまりにもずっと先に見えるため、幾ら進んでも辿り着けないような気になっているのではないかと思ったりもした。

051203_1408それでも進めばいつかは到着できる。少なくともあと1時間以内にゴールできることは間違いないと思われた。 吉田は、山ちゃん達から5㎞ほど戻ったところを歩いていた。その歩き方を見ると、両足をかばうような状態で、足がかなり痛んでいることが分かったが、表情を殆ど表に出さない吉田であるからして、表情から痛みを窺い知ることはできなかった。ここで、最後のバナナ休憩をし、食い終わるやすぐにゴールに向かって小野と一緒に去って行った。これで、吉田のバナナを食う姿も見納めかと思うと寂しくもなったが、どうにかバナナが足りたことにホッと胸を撫で下ろした。

しかし、もしかしたら、吉田は残りのバナナの本数が少ないのを悟って、本当はもっと食いたかったのに遠慮したのかもれない。これを教訓に、次回はバナナの本数を増やすことにした。

051203_1443途中、道草をくってから道の駅きららに戻り、とりあえずは山ちゃん達がゴールするのを待った。待つこと10分。ついに山ちゃん達がゴールした。山ちゃんも岡田もそこそこに足が痛んでいたようだが、そんなに深刻なものではないように見えた。岡田は、来年早々に控えた駅伝のためにこの次の日も走ると言う。50㎞近くも走った翌日に、また走るとは驚きである。なかなか出来ることではない、普段は何を考えているか分からない男だが、その根性は認めなければならないだろう。

山ちゃん達がゴールできることは、私も本人達も分かっていたことだから、ゴールできた感動は最初の頃に比べると薄かったかもしれない。まあ、最高の感動は最後の次回ランまでお預けといったところだろうか。

051203_1607_00そして、それから待つこと1時間20分の午後16時7分にバナナマン吉田がついにゴールした。吉田が参加した第一回出雲ランの時と到着タイムはほとんど同じなのだが、こちらの方が距離が5㎞も長いので、確実に今回のランでの吉田は進化していたといえる。それも、普段から練習をしていたとかではなくて、「皆を待たせたくない!」という気持ちでタイムを縮めたのだ。

練習をすれば、いくらでもタイムは縮まる、しかし、精神力でタイムを縮めることは並大抵のことではない。塾長賞というものはないが、そういうものを設けるのであれば、今回の塾長賞は間違いなく吉田である。寡黙な男、バナナをこよなく愛する男、強い精神力を持つ男吉田。やはり、吉田のいないラストランは考えられない。来年の1月か2月に予定していた出雲大社への第5弾ラストランは、吉田が次に船から降りる4月か5月に行うことにした。その私の言葉を聞いて、吉田も喜んでいた。そして、勿論、ラストランには、私も参加する。

ゴールに待っているものは何か!感動か達成感か、それとも・・・。出雲大社までは、あと30㎞弱。200㎞以上に及ぶ長かった出雲ランもとうとう次のランでその幕を閉じる。

参加者の感想

山ちゃん

今回の走行距離48キロ。これで総計190キロ。ゴールまであと30キロのところまで来ました。あと30キロなんて屁みたいなもん?帰りの車での移動時間の長さに、そう思えることをしてきたんだと実感しました。

小野

来週に城下町マラソンを控え、今回は走る前から少しモチベーションも高く、休憩なしで歩かずに完走しきろうと思っていた。でも、現実は厳しく20kmを過ぎた辺りで上り坂を歩いてしまった。それまでは足を痛めないように気遣いながらゆっくりでも走っていたけど、思ったより起伏のある道だったので根負けをした。でも、30㎞地点の大田市市街地までは順調なペースで行くことができた。ゴールまであと10㎞程度、多少無理しても大丈夫だろうと集中し直して走り出した。40km地点にさしかかったところで田島さんにゴール地点の確認をすると、ゴールはまだ9㎞先の「きらら」という道の駅だという・・もう少しと思って走ってきたので、がっかりしたのと疲労とで集中力が切れてしまった。改めて距離の重さを感じた今回のRunでした。

岡田

今回はかなりペースを落として走ったので、体力的には何の問題も無かったですが、やはり足が少々痛かったです。後これはマラソンには何の関係もないですが、塾長が帰り道の車の中で他のランナーは後部座席で疲れて眠ってるのに、寂しいからってずっと話し掛けるのはやめて欲しかった。私だって他のランナー程ではないですが、眠りたかった。話がそれましたが残す所後一回ですが、次は最初の1回目以降本気で走ってないので本気でやろうかと思います。もしくは塾長が最後をランナーで参加するらしいので私は裏方に回ろうかと思っています?

吉田

仕事の関係で第二回、第三回に参加できなくて非常に残念です。六月の萩~田万川以来、約半年ぶりの参加となり、鈍った体を体を引きずりながらも皆様のお陰で無事、今回の目的地まで辿り着くことが出来ました。本日もお誘い下さいまして、本当に有難うございました。

記録写真

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第四回スタート地点

時刻は約7時。まだ薄暗い。

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サンライズ

8時過ぎ。やっと日が昇る。寒さを解消してくれればよいが。

051203_1157
休憩

先に備えて、長めの休憩。走るのも辛いが、ゆっくりと休める気温でもない。

051203_1346
道の駅きらら多岐

道の駅きらら多岐は裏側が海水浴場になっている。季節的にとても海水浴という雰囲気ではないが。

051203_1407
小野と吉田の再会

小野は優しい男である。自分がゴールした後に吉田のところまで戻り、彼と再びゴールを目指す。

051203_1425_00
強風

この日は、北からの風が強く、暗く垂れ込めた雲が
日本海の冬を演出している。

051203_1609_00
第4回ゴール

今回も無事、全員ゴール。

051203_1726_00
温泉津(ゆのつ)温泉

疲れて冷え切った体を温泉で癒す。

051203_2022
めし

一日の疲れを温泉で癒し、ちゃんめんで空腹を満たす。
至福の瞬間だ!

051203_2051
須佐駅前

クリスマス間近の須佐駅前できれいなイルミネーションを背景に記念撮影。

051203_2144
解散

4時に集合して、10時前に解散。
約18時間も塾長に拘束され、疲れきった面々。


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