カミングアウト

今まで、事が事だけになかなか告白できなかったことだが、いつまでも自分の中だけに閉じ込めておくのは苦しいし、もう時効なので、告白させてもらう。

私が高校3年生の時のことだ。当時、仲の良かった同級生のNが某所に遊びに来た。Nは、高校の時のラグビー部の同僚で、クラスも一年生から三年生までずっと一緒だった。お互いに勉強嫌いで、彼女のいない者同志である私達は、頻繁に遊んでいた。

Nは、某所に入ってくるなり、「暑いのう~!喉渇いたでぇ~!」と言って、某所に置いてあるテーブルの上に目をやった。Nが目にしたのは、500mlのコーラの缶であった。

その缶の中には、ある諸々の事情で、黄金水が並々と蓄えられていた。Nは、コーラが中に入っていると思ったのか、缶を手にして中身があるのを確認すると、「コーラもらうでぇ~!」とだけ言い放って、一気にグイッと喉に流しこんだ。おそらく、中身の3分の1ぐらいを飲み込んだと思う。

いきなりのことだったので、私は飲むのを止めることができなかった。

私は思わず、「うわぁっ!飲みやがったよ!こいつ!」と、頭の中で叫んだ。

Nは、それがコーラではないことにすぐに気付いたみたいで、「うげぇ!何これ!不味うっ!黄金水やないか!」と言ってしかめっ面をした。が、それを吐き出して口の中を洗うことも、何故コーラの缶の中に黄金水が入っているのかを問いただすこともなく、コーラ缶をテーブルに置くと、すぐに平然とファミコンをやりだした。

Nの反応はそれっきりで、そのことはもう話題にもでてこなかったので、私からコーラ缶の黄金水の話をきりだすことはなかった。

私は可笑しくて堪らず、大笑いしたかったのだが、笑ったらそのことを責められそうなので、Nが某所から帰るまでは必死に笑いを我慢していた。

Nが帰ってから、しばらくは笑い転げた。誰かにこの面白さをお裾分けしようとも思ったが、事が事だけにNの名誉のことを考えて、このことは自分の胸の中だけにしまっておくことにした。

時の経つのは早いもの。あれから17年間、誰にもこのことを告白することなく、今日まで至ったしまった。

Nという男は、ただの変人なのか、ある意味豪胆な男なのかは今でも判断に悩む。ただ、普通の感覚の持ち主なら、封が開いたものを飲むことはしないはず。中身が時間の経ったものかもしれないし、何か変なものや違うものが入れられている可能性もあるからだ。

それと、黄金水飲んで平然としているなんて普通じゃない。

やはりこいつはただの変人かもしれない。


コメントを残す

メールアドレスが公開されることはありません。 が付いている欄は必須項目です