萩焼作り(後編)

カテゴリ
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開催日
2006年09月26日() ~ 2006年09月27日()
開催状況
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大口

メラメラと燃える大口(登り窯の薪を燃やす箇所)午前7時15分に窯入れを開始したので、この時は既に14時間以上が経過していた。

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温度メーター

この温度メーターを見ながら、薪の燃え具合を見て大口に薪を投げ入れていく。その間隔は、だいたい15~20分ぐらい。開始から14時間を経過して、窯の内部の温度が、ようやく1000℃に達しようとしていた。ちなみに左右の数字は、それぞれ大口の内部の左側と右側の温度を示す。昔は、このような便利なものはなかったから、勘と経験に頼っていたことだろう。大口内部の温度は、目標として1100℃、最低でも1060~1070℃ぐらいまで上げなければならない。

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覗き窓

登り窯の横側の袋(作品を入れる部屋のこと)の入口は、レンガで塞がれており、その袋を塞いでいるレンガの壁に、中が見えるように覗き窓がついている。ここから、中の様子を伺うことができる。だが、薪を大口に投げ込んだ直後は、ここから激しく火が噴出すので、危なくて覗くことはできない。

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大口専用

大きく切り分けられた薪は、大口専用の薪である。大口には、これの他に燃焼を持続させるためのもっと大きい薪がある。温度を上げていくには、一回に投げ入 れる薪の量を、増やす必要がある。この時点で、大口に投入する薪の量は、最初に特大の薪を左右と真ん中に1本づつの3本。その後に、大口専用の薪を4束で あった。また、薪の量もむやみに増やせば良いというものではない。大口内に溜まった熾(薪が燃焼して真っ赤になった状態のもの)の量を考慮して、どれだけ増やすか、どのタイミングで増やすかを決めなければならない。このことは、師事した師匠から大雑把には教えてもらえるらしいが、気温や湿度によって変わってくるらしいので、結局は自分の勘と経験が頼みの綱となる。

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投入

前回投入した薪が、燃焼して熾になったので、次の薪を投入。大口とはいえ、小さい入口から狙った場所に大きい薪を投入するのは難しい。何度か、入口に当てて、狙ったところを外していた。
それでも、投げる姿は、なかなか様になっていた。

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燃え上げる窯

薪が入った窯は、激しく燃え上がる。そして、より一層輝きを増す。

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チェック

一時間おきに温度をチェックして、ノートに書き込む。この日は、窯の中の温度上昇は早かったようだ。

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熱風&光避け

登り窯から約10m離れた休憩所には、熱風&光避けとして、前方にベニヤ板が置いてある。こうしなければ、熱風の熱さと、炎の光の眩しさでゆっくり休憩することもできない。

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両方から攻める

ある程度、窯の中の温度が上がったので、大口に投入する量を増やす。それまでは、窯の左側からのみ、投入していたのを、今度は同じ量を二人で窯の両側から投入する。
要するに、投入する量は2倍になったわけだ。

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攻める2

大口の左側奥を攻める。登り窯の左側に袋(部屋の入口)があるので、窯の左側から空気が抜け、窯の左側の温度は上がりにくい。よって、左側の攻めは重要である。

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攻める3

大口の真ん中手前を攻める。窯の中の温度を保ち、しかも温度を上昇させるには、大量の熾(薪が燃焼して真っ赤になった状態のもの)が必要である。この熾の 量を大口の中で均等になるようにするには、左右だけでなく、真ん中にも投入しなければならない。特に、真ん中手前への薪の投入は、大口の中に、薪が燃焼す るのに必要な酸素が入り易くするためには重要である。

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薪置き

この上に薪を置く。この上に置くと、いちいち屈まないでいいので、とても薪を投げ易い。

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監視

薪を投入する時、または投入した後もしばらくはメーターで窯の中の温度を監視する。窯入れは、この温度管理との闘いである。

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避難

薪が入って激しく燃えさかる登り窯から避難して休憩する。

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覗き窓から、ガスバーナー並の激しい炎が噴出す。触ると、とても熱い!

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炎2

登り窯の天井から激しく噴出す炎。炎が大き過ぎるのは、不完全燃焼のため良くない。この炎の大きさを見て、薪を窯に投入する速さを変える。

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作業場遠景

作業場は、登り窯が燃えさかっているため、遠くから見てもすごく明るい。

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吸気

大量に薪を投入された大口内部では、薪が激しく燃えるため、大量の酸素が必要となる。この時は、「ゴーッ!ゴーッ!と音をたてて大口から空気を吸い込んでいた。

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温度確認

大口内の温度が1060~1070℃をキープしているのを確認し、大口への薪の投入を止める。1100℃に達することはできなかったが、いつも以上に大量 の熾をキープすることができた。大口内の熾の量が多いと、窯の中全体の温度が下がりにくく、次のステップである第一袋の温度上昇がスムーズになる。

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投入準備

登り窯横の階段部分に上がって、第一袋に薪を投入する準備をする。佐久間の登り窯には、第三袋まであるが、まず第二袋までしか作品を入れることはないとの こと。第三袋は、「捨て袋」と言って、窯の中全体に効率良く熱気が行きわたるようにする役割がある。いわば、熱気の循環装置のような働きをしている。

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袋用薪

袋用の薪は大口用薪と比べて6~7分の1と細い。大口用の薪も使用可らしいのだが、袋の中は薪の投入用の30㎝のスペースしか無く、その横には何百という 作品がぎっしり詰っている。大きい薪を作品に当てた場合、破損する可能性が高いので、そうならないように細い薪を使うとのことだ。

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レンガ除去

投入口を確保するため、投入口を塞いでいた2つのレンガを取り除く。このレンガは炎で熱されてとても熱い。耐火手袋をしても、すぐに手放さなければならないほど熱かった。

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投入口確保

レンガを取り除くと、真っ赤な炎が現れた。この第一袋では、1200℃まで袋内の温度を上げなければならない。大口内に大量の熾があるため、この時点でも袋内は1050℃ほどの温度を保っていた。

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投入開始

袋内の作品の場所を確かめながら、薪を投入する。

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投入2

投入口の幅は15㎝ほどと狭く、真っ直ぐ投げるには、かなりのテクニックを必要とする。腕で投げるというよりは、スナップだけで投げている感じだった。

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交代制

大口への薪の投入は、佐久間パパは終盤の二手に分かれて投入する時だけだったが、ここでは、最初から佐久間パパも交代で投入していた。薪が細いため、すぐに燃え尽きてしまうので、すぐに次を投入しなければならず、ここでは休憩することはできない。
ここでは、古い木の薪の束と、新しい木の薪の束を1束づつの計2束を1回の薪入れで投入していた。

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大口内部の熾。大口内部に薪を投入するのをやめて1時間以上が経過したにも関わらず、爛々と赤く燃え続けていた。

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温度メーター2

この高性能メーターは、大口内部、第一~第三袋内の温度を設定を切替えることによって、それぞれ測ることができる。この時、第一袋に薪を投入開始してから1時間10分ほどで、袋内の温度は1154℃に達していた。

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確認

第一袋へ薪を投入開始してから約2時間。確認用のサンプルを取り出して、釉の溶け具合を確認する。釉は、液体状のガラスであるので、1200℃まで温度が達しないと、溶け具合が悪い。この時は、焼きがもう少し足りないようだった。

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到達

投入開始から2時間10分を経過して、第一袋内の温度は、ついに1200℃に到達した。釉の溶け具合もバッチリだったので、第一袋への薪の投入終了のゴーサインがでた。

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第二袋

第一袋を終えて第二袋へ。ここでの投入の要領は第一袋と同じ。第二袋での作品の焼き上がりは、第一袋の作品の焼き上がりよりも良いものが出来易いらしい。熱気と炎の流れが良いのが、その原因である。

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トップバッター

トップバッターは、佐久間パパである。この時、時刻は午前4時半過ぎ。65歳という高齢にも関わらず、前日の朝からの疲れを感じさせることなく、手際良く薪を投入していた。

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孝行者

高齢の佐久間パパを気遣って、ここでは佐久間パパが1回投入で交替に対して佐久間が2回投入で交替というようにローテーションに差をつけていた。親孝行者である。

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鏡でチェック

写真からは分かりにくいが、登り窯の手前の柱の梁には大きい鏡が2枚取り付けられている。それに映る登り窯上部の噴出す炎の大きさを見ながら、薪を入れるスピードを調整している。

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袋の中でメラメラ燃える炎を見ると、神秘的な気持ちになることがある。この炎が、萩焼を作る。萩焼とは、ファイヤーアートである。

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夜明け

ついに夜が明けた。この時、窯に火を入れてから23時間以上が経過していた。第二袋の温度上昇はスムーズである。終りは間近だ!

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笑顔

終りが間近とあって、思わず佐久間パパも笑顔になる。

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煙突

登り窯の後方にある2本の煙突から排煙する。今回、煙突の改造をしたことが原因で熱気と炎の流れが良くなったとのこと。

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そろそろか!

温度計が気になる。この時、温度計は1190℃を超えていた。もう少しだ!

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クライマックス

最後は、やはり佐久間が薪を投入する。すぐに1200℃に達すると、釉の溶け具合が悪くなるので、温度調整のために薪を投入する間隔を長くする。最後が重要なので、薪を投げる動作も慎重なものになる。

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第三袋

この登り窯の最上段にある一番小さい袋は、温度調整用の袋のため、使われることはない。開かずの間である。

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到達

ついに1200℃に達した。だが、これで薪の投入をやめることはなく、焼きムラを出さないために、もうしばらく、薪を投入していく。これだけ慎重に作業を行っても、ヒビ割れや焼きムラがあったりして、市場に出せるのは全体の6割ぐらいらしい。

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終了

長い窯入れがようやく終わった。時刻は午前7時5分。窯入れを始めてから24時間近くが経過していた。終了まで27時間ほどかかるものと見込んでいたため、3時間も早い上がりには一同驚いていた。これも、煙突を改造して、燃焼効率が良くなったのが原因か?佐久間も佐久間パパも、24時間ぶっ続けの作業で疲労痕倍の状態だったが、無事作業を終了した喜びからか、その表情は明るかった。私も、10年前の麻雀以来の徹夜だったから、かなり体力を消耗していた。しかし、私も初めての仕事を完遂したことで、この上ない充実感を感じていた。ちなみに私の窯入れでの仕事は、薪運びと、番線でしばられた薪をバラして薪置きの上に置くことであった。

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長かった闘いを終え、投入口を再びレンガで塞ぐ。薪の投入を終えたら、すぐに投入口を塞がないと、窯の中の温度が急激に下がってしまい、作品が割れてしまうそうだ。

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薪の束数

第一袋と、第二袋に投入した薪の束の数。黒板の正の字で書いていく。上が第一袋で46束、下が第二袋で44束である。だいたい同じ数である。

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蓋2

最後に大口を天井から下げてある大きな鉄の蓋で塞ぐ。これも、袋の投入口をレンガで塞ぐのと同じく、窯の温度を急激に下げないためである。
これから5日間ほど、この状態で置くのだが、5日後でも窯の中の温度は80℃ぐらいあるとのこと。驚きである。
萩焼はファイヤーアートである。どんなものが出来上がるかは、神のみぞ知る。たまに、何百個か何千個かに一つの割合で、思いもよらない素晴らしいものが出 来ることがあるという。熟練の達人になるほど、それを高い確率で狙えるようになるというが。ここは、素晴らしいものが出来るよう祈ろう!

体験後記

萩焼作りを経験して感じたことは、作るのも大変だが、焼くのはもっと大変だということである。(ここで焼くと は、ガス窯ではなく登り窯で焼くということ)

確かに、作るのは生活がかかってるから、数多く作らなければならないし、そうした中でも自分なりの独創的な ものを創造していかなければならないから、産みの苦しみもある。だが、その作ったものを良くするも悪くするも 焼き次第である。

焼きが上手くいけば良いが、悪かったら下手すると全滅ということにもなりかねない。そうなると、3ヶ月もか かけた時間と労力がパーである。

熟練の達人ほど、失敗は少なく、しかも想定外のまぐれともいうべき極上品を高い確率で狙うことが できる。しかし、それでも失敗はする。炎という自然が相手である以上、どんな達人でも絶対はない。萩焼歴2年半、修行中のも含めて今回が10回目の登り窯の窯入れである経験の浅い佐久間に対しては、「大丈夫なのだろうか?」という不安があったことは正直に述べておく。

結果的に、予定より3時間も早く、順調過ぎるほど順調に窯入れが終わって一同ホッ!としているわけだが、こ の予定より早い3時間という時間が吉とでるか、凶とでるかは、窯を開けるまでは分からない。それが分かるのは、 10月2日である。

失敗はできないという緊張感の中、「良いものを作りたい!」という強い情熱を持ち続けて頑張った佐久間のた めにも、今回の窯入れが成功であって欲しいとは思うのだが。今のところ、成果は神のみぞ知るといったところだろうか。

 


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