新春寒稽古 2008
- カテゴリ
- ANOTHER
- 開催日
- 2008年01月03日(木)
予想外
真冬でも、半袖Tシャツの厳つい男が、大量のガリガリ君を持ってレジに並ぶ。その様子は、レジの人からも一般人からも、異様な姿に見えたことだろう。「897円です!」のレジの人の声に、”えっ!間違いじゃねえの!”との思いが頭をよぎる。私の予想では、62円×11個で682円になるはず。だのに何故?
納得できない私は、「勘定違うんじゃないか?」と、レジの人に詰め寄った。 「いいえ、間違いじゃありませんけど。105円×5個と62円×6個で892円になります。」と、レジの人。”ん?105円?”「105円の分ってどれ?」 「ガリガリ君の苺ミルク味です。」と、レジの人。「へぇ~。そうなん。」と、納得しつつも”しまったぁ!”と思った。ガリガリ君の苺ミルク味も同じ62円と思い込んでいたのだ。
完全に私のミスだった。思わず、”苺ミルク味を普通のガリガリ君に替えてもいいですか?”と、言いかけたが、踏みとどまった。漢たるもの、一度レジに出したものを引っ込めるなんて出来やしない。値段の高いものに替えるならまだしも、ましてや値段の安いものに替えるなんて、尚更できない。 “これは俺のミスだからやむをえまい!”そう思い、渋々金を払った。897円-682円=”215円”の余分な痛い出費であった。
インスピレーション
寒中水泳前日、私は悩みに悩みあげていた。悩み過ぎて大好きな餅も喉をとおらず、あの世に逝ってしまいそうになるほどだった。何をそれほど悩んでいたのかというと、今回の寒中水泳で何の催しをやるかで悩んでいたのである。
平成14年から続く寒中水泳も、今回で7回目。私個人は10回目になるのだが、いつもただ海に入るだけでは、面白くも何ともないのだ。そんなのでは、やる方も、見る方もいい加減に飽きてしまう。根性屋のテルさん達は、新しい試みとして海でアームレスリングをされると、おっしゃられていた。実に斬新なアイデアだと思った。なら、私達は何をする?
それならば、俺達は寒中麻雀だ!と思ったが、麻雀だと4人しかできないし、何時間も裸で麻雀をし続けるのはさすがに辛すぎる。また、皆の猛反対にあいそうなので、それは思いついただけで終った。よって、何をするかも決まらないまま、ついに前日になったのである。
考えに考えても何も思いつかなかったので、あとは天に祈るしかなかった。”何か面白いことを思いつきますように!”と、神様にお祈りして、考えることをやめ、テレビを見ていた時のことだ。それは何かのクイズ番組だった。 “面白くねえ番組だ。”と思い、チャンネルを替えようとした時に、”ん!クイズ?”と、私の意識に何かが引っ掛かったのである。
“クイズといえば、我が漢塾には、クイズ同好会の”ぢよん○○”がいるなあ。そうや!こいつに問題を作らせてクイズをやろう!”。私の意識にクイズが引っ掛かってから、そのように閃くのに時間はかからなかった。
すぐに”ぢよん○○”に電話し、難易度が易しい問題を20問ほど作ってくれと依頼した。寒中水泳とクイズの組み合わせ。これはおそらく、世界でも初めての試みではなかろうか。我ながらナイスアイデアだった。おかげで、翌日のことが楽しみでならなくなった。
あれほど長時間考えても思いつかなかったのに、閃くのは一瞬だ。考え抜いてダメな時は、思考を捨てて、天に身を任せることも大事であると改めて思った。閃きは偉大なりである。
遅刻
私が菊ヶ浜の駐車場に到着した時は、誰もいなかった。広い駐車場で、しばしポツンと一人たたずむ私。”もしかして誰も来ないのかも?”という思いが一瞬頭をよぎったが、それも杞憂に終った。集合時間の10時をまわったあたりから、荒法師さんを筆頭に”ぢよん○○”、アホの末、村上さん、大作と、ゾロゾロと来始めたのだ。
“もしかすると、ドタキャンして来ないかも?”と思われた兄貴と変態小野も無事集合。あとは、萩の中では最も豪雪地帯である旧むつみ村から参加する山猿だけとなった。旧むつみ村は豪雪地帯である。萩市内は雪が積もることなんて滅多にないが、旧むつみ村では最も雪が多い時で1m以上積もる。30~40cmの積雪なんてザラにあるらしい。萩市内からわずか30㎞しか離れてないのだが、萩では唯一、”雪かき”が必要なところなのである。
この時は、天気も良く暖かかったので、積雪による遅刻ではなく、単なる二度寝による寝坊での遅刻であった。 漢塾に遅刻やドタキャンは許されない。本来であれば、拷問部屋行きのところなのだが、事前に電話で”遅れる。”ということを私に伝えていたので、許してやることにした。定刻より30分近く遅れて山猿が到着。冷たい海の中に入るのが先に延びて、これ幸いと思ったのか、誰も遅刻したことを咎める者はいなかった。
今回、寒中水泳は、撮影&クイズ担当者の柴田さんと、カメラマンの”ますたぁ”の2人のスタッフに、クイズ回答者である我々10人の計12人で行われることとなった。
着替え
寒中水泳の装備は最もシンプルである。裸である。下は、海パンだろうが、半パンだろうが、フルチンだろうが構わない。とにかく脱げるところまで脱げば良いのだ。
砂浜に到着してから、まずは塾長である私が最初に裸になったのだが、一部の者は寒風に晒されるのを嫌がってか、なかなか脱ごうとしない。 「早う脱げぇや!」との私の怒号で、ようやく脱ぎ出した。この時は、まだ甘えが残っていて、寒中水泳に入り込めてなかった。
相撲
全員が裸になったところで、毎年恒例の体を温めるための相撲を始めた。体を温めるための相撲とはいえ、手を抜いてやっていたら、やることの意味がない。相撲部屋のぶつかり稽古同様、激しいぶつかり合いが繰り広げられた。
今回は、クイズがメインということもあり、全員が3番とったぐらいで短めに終えたのだが、体の方は結構温まったようであった。
ルール説明
海に入る前に今回のプログラムと、クイズの説明を行った。プログラムは以下のとおりである。
- まず海に入り、全員で円陣を組んで一人10秒づつ数える。数え終えたら海から上がる。
- 海から上がってアイスを食う。
- 全員がアイスを食ったらクイズを行う。
プログラムは、いたってシンプルなのだが、やはり曲者はクイズであった。クイズのルールは以下のとおりである。
- クイズは、一回につき一問。正解できた人は寒中水泳を終えられる。残った者は海に入って、円陣を組み、一人5秒づつ数えなければならない。
- 誰も答えられなかったり、答えても不正解の場合は残った者全員が海に入らなければならない。
- 多数の者が挙手した場合、誰を回答者に選ぶかは、クイズ担当者の裁量で決める。
クイズのルール説明をすると、全員から「ええ~っ!」と、どよめきの声が上がった。無理もない。10人いて、一人づつ抜けるルールのため、最下位の者は、最低でも10回は海に入らなければならなくなるからだ。一番最初に抜けられる者も、下手すれば何回も海に入らなければならなくなるかもしれないから、かなり過酷なルールであると言っても過言ではないだろう。
だが、ルールは過酷なほど面白いのだ。”これぐらいで死人はでやしないだろう。”との安易な思いのもと、私達はついに海に入ることとなった。
本編
「さあ、行こうか!」との私の声で、皆それぞれ海に入った。水は思ったよりも冷たくはないが、冷たいことに変わりはなかった。
海とのファーストコンタクトの時に、冷たいものだから、あちこちで「うぎゃあっ!」とか「おひょおっ!」とかの活字にしにくい奇声があがる。首まで海水に浸かってしまえば、どうってことはないのだろうけど、体を海水に浸ける最初が一番嫌なのは、毎年同じであった。
全員が円陣を組んだところで、カウントをスタート。一人づつ順番に10秒づつ数えていく。少しでも早く海から上がりたいからか、誰もが数えるのが早くなっていた。おそらく、10秒のところが6~7秒しかかかってないのではなかろうか。それを調整するため、私の出番では通常の2分の1の早さで数えた。よって、10人で100秒という規定どおりの時間の長さにはなったと思う。
予想外に水温が高かったこともあり、この時は、まだ皆の表情にも余裕が見受けられた。
海から上がる時、私を含めた何人かが、ウニともガラスとも得体のしれないモノを踏んだため、足の裏を負傷してしまった。よって、この次からはサンダルを履いて海に入ることを余儀なくされてしまった。
ガリガリ君
海から上がった私達を待っていたのは、アイスキャンデーの名作であるガリガリ君であった。以前より、寒中水泳にはガリガリ君とうたってはいるが、今回が初登場であった。実は、ガリガリ君なんてアイスがあるのは、誰かに教えてもらうまで私は知らなかったのである。知らないくせに、何年か前に寒中水泳で食った他社のアイスキャンデーに適当にガリガリ君と名前をつけたのだ。本当にガリガリ君というアイスキャンデーがあるのを知って驚いたが、だからといって”それがどうした”としか思わなかった。ガリガリ君なんて、誰でも思いつきそうな名前だからだ。
まあ、そんなことはどうでも良いとして、私が食ったのは苺ミルク味の方で、さすが105円もする高級アイスだけあって美味かった。以前は、食い残したアイスを砂に埋めた不届き者がいたが、今回は危うく変態小野がズルしかけたのを私が阻止したため、全員が無事完食。いよいよメインのクイズへと進むことになった。
クイズ開始
問題の出題者である柴田さんの周りに集まり、どういう問題が出題されるかを注意深く聞く。最初の問題は、「今日、1月3日は12星座で言うと何座に当たるでしょう?」というものだった。私は事前に”ぢよん○○”に「あまり難しくすると、いつまで経っても終らんようになるから、簡単にせえよ!」と、言いつけたとおり、簡単な問題を作っていた。
だが、しかしである。星座は自分の星座くらいしか分からないし、他の者も星座には興味が無いからか、しばらくは沈黙の状態が続いた。
そんな中、その沈黙を破ったのは今回が2回目の参加となる須保であった。「やぎ座!」須保がそう答えると、「正解!」と、柴田さんが言った。その瞬間、須保の一抜けが決まった。
他の者は、「うおおおっ!くっそお!」と、悔しがり再び海の中へ。ところがである。一抜けのはずの須保も一緒に海の中へ。”まだ海に入りたいんやろうか?”と思い、何も言うことをしなかったが、数を数える時になって事の重大さに気付いた。人数が減らないと、海に入っている時間が減ることはないし、最後の一人が正解するまで続けるわけだから、いつまで経っても終らないのである。まあ、でも次は海に入らないだろうと思い、その場も何も言わなかった。
お前もか!
次の問題では、既に一抜けた須保が見事に間違え、全員が海へ。この時、本来であれば回答権のないはずの須保は全員から袋叩きにあっていた。”なかなか面白いことしやがる奴だ。”と思い、この時も何も言わなかったのだが、その次の問題で正解した兄貴が、やはり海から上がらなかったことで、私はついに重い口を開けることになった。
「ええか、海に入りたい気持ちは分かるが、そんなことしよったら、何時まで経っても終らんから、次は海から上がれよ!」と、兄貴に一言。 だが、アホの須保には、気が済むまでやらせることにした。
3番目の男
柴田さん「肉体や心の欲望、他人への怒りなど108あるとされる・・・。」
私「はいっ!はいっ!」
柴田さん「どうぞ!」
私「煩悩!」
柴田さん「正解!」 私「よっしゃあ!」
クイズに正解した私は、3番目の寒中水泳からの解放者となった。だが、解放者も全員がクイズを終えるまでは、服を着ることは許されない。気温が高めとはいえ、やはり冬であることには変わりはなく、裸でジッとしているのは辛かった。 海に入っても地獄、出ても地獄なのが漢塾寒中水泳の醍醐味である。
気づきの幸せ
最初の3~4回までは良かったが、これが5回、6回、7回と進むにつれ、皆の表情も曇ってきた。何回も海から出たり入ったりを繰り返すことで、体が真底冷え切ったのだろう。そうなるのも無理はなかった。
なかでも変態小野は動きも鈍く、目も虚ろになって、殆ど生命活動が停止しかけていた。前日から朝の3時過ぎまで飲んでいたというから、それも一つの要因としてあるかもしれないと思った。
だが、”そんなの関係ねぇ!”である。事前に不摂生をすると、こうなるのは分かっているはずだ。こうならないようにするには、早く飲みをきりあげて帰れば良かったのだ。分かっていて出来ないのは、バカである。変態小野には、常日頃より、そのことを言い含めてあったのだが、私の言うことを分かってないというか、本気で聞いてなかったようだ。全く愚かな男である。
アホの変態小野は放っておくとして、この時、私はあることが目についた。”ぢよん○○”がクイズで回答しようとしないのだ。しばらくして気付いた。”こいつはクイズの製作者だから答えが分かっている。だから、気を遣って回答しようとしないのか!”と。悪いことしたなと思ったが、もう遅かった。今さらクイズをやめるわけにはいかないし、”気を遣わなくていいぞ!”と、ぢよん○○に言ったところで、こいつがそれを聞くわけもない。 このまま、最後まで”ぢよん○○”の勇姿を見届けるしかなかった。
気付かなければ、”こいつクイズ同好会のくせに大したことないな。”と思ったかもしれない。でも、気付いたことで、こいつの漢っぷりを知ることができた。普段は、無粋で何を考えているか分からない男だが、大分ランでのど根性といい、今回の漢っぷりといい、なかなか良いものを持っている男である。この漢っぷりならば、もしかすると1億人に1人ぐらいの女性は奴に惚れるのではないかと思った。
まあ、それは1割ぐらい冗談としても、そのことに気付いたことで、気持ちが温かくなった。おかげで、寒さに萎縮した私の心もほぐれたのだった。
ラストスパート
クイズも佳境にさしかかっていた。一人抜け、二人抜けで、最後は荒法師さんと”ぢよん○○”になった。私にとっては、何故、あの賢い荒法師さんが、最後まで残っているかが疑問だった。運がなかったのかもしれない。もしかすると、荒法師さんの友人である柴田さんが、友人だからということで、遠慮して回答者に選ばなかったのかもしれない。いずれにせよ、最後まで残ったのは、荒法師さんの実力ではなかった。
だが、ここまで、海に入ること十数回。普段は絶対に味わうことのないアホで過酷なことを荒法師さんは存分に楽しんでおられるように見えた。空手で鍛え上げられた強靭な肉体と、お遍路や山登りで鍛え上げた強靭な精神、そして、漢塾の硬派ではあるがアホなイベントに参加するお茶目さを合わせ持つ荒法師さんは、魅力的な男である。
そんな魅力的な男である荒法師さんに参加していただけるおかげで、漢塾の寒中水泳も面白いものになっているのだ。荒法師さんに参加していただけるのは、今回で3回目。本当に有難いことである。
クイズの方は、予想どおり、荒法師さんが正解し、”ぢよん○○”は、もう一度海に入った。そして、最後に軽く回答して、クイズは終了となった。
最初に海に入ってから、40分。長い長い闘いの幕切れであった。
寒中水泳を終えて
毎年、この時期になると、塾生達と連絡がとりにくくなる。私が避けられているというのは良く分かっている。だから、今回は私からはあまり声をかけることはなかったし、参加人数も少なければ少ないで良かった。最悪の場合、私一人でも海に入ればよいと思っていた。しかし、フタを開けてみれば、参加人数は昨年とタイの12人。有難いことであった。おかげで、今回初導入のクイズも大勢でやったために大いに盛り上がった。クイズの導入は、ただ海に入るだけという単調な寒中水泳に大いなる刺激というか、”楽しむ”というゲーム性をもたらしてくれたように思う。また、クイズの導入に尽力してくれた”ぢよん○○”は、正に今回の寒中水泳の一番の功労者であるといってよいだろう。これで次回も、クイズの導入は確実になったわけだが、勿論同じことはしない。何か良いアイデアなるものを付け加えて、より良いものにするつもりだ。
寒中水泳は、一年の始めの行事である。これを無事遂行したのだから、我々にはもうこの一年の無事は約束されたようなものである。我々は常に向上することを目指す。さあ、今年もこれまで以上に楽しく、これまで以上に皆と仲良く、これまで以上に漢を磨いていこうか!
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