Road To 大分 第五弾
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- RUN
- 開催日
- 2008年11月01日(土)
再会
前回の漢塾大分ランを終えてから約1年。ようやく私達は再会することになった。
当初、参加予定人数は8人であった。だが、アホの末は仕事の都合で、ここまで通しでやってきた山ちゃんは、嫁さんの決裁がおりずに、マス岡田は大事な急用が入ってキャンセルになってしまった。よって、参加人数は私を入れて5人というリザーブランと変わらない人数になってしまったが、開催日を変えるつもりはなかった。誰かの都合に合わせれば、今度は他の誰かが都合が悪くなる。そうして、皆の都合を聞いていると、どんどん日程が延びてしまう。
漢塾大分ランは、何としてでも今年中に終らせるつもりでいたから、それだけは避けたかった。幸いにも参加者の4人は皆個性の強い精鋭揃いである。おかげで、人数が少ないことは不利な材料にはならないような気がした。”この精鋭達が、今回はどんな物語を作ってくれるであろうか?”という期待を胸に、私達は前回到達地点である宇佐市を目指して萩を出発した。
私達のこれまでで一番長い1日の始まりだった。
パーキング
下関市は、宇佐市までの距離の約半分にあたる。約2時間のドライブを経て、私達はここの関門橋の袂にあるパーキングで休憩をすることにした。私がここのパーキングに来るのは、おそらく4~5年ぶりになると思う。それ以前は、頻繁に高速道路を通って九州に行っていたが、ここ最近は行ってなかったのである。私生活や漢塾が多忙だったこともあるし、主に東の方へ行っていたということもある。とにかく久しぶりに来る関門パーキングは懐かしかった。
久々に来て目についたのが、パーキング内にコンビニやらホテルやらが出来ていたということ。パーキング内にこのようなものが、あれば便利だとは思っていたが、本当に出来ていたことは驚きだった。ここで、私達はコンビニでサンドウィッチやらおにぎりやらを購入して、朝食とした。ここから宇佐市までは2時間余り。着いた頃には、胃の中のものもこなれているであろうから、朝食を摂るタイミングとしてはグッドなタイミングであった。
ぶぜん道の駅
関門パーキングを出て、関門橋を渡り、門司で高速道路を降りる。それから国道25号線~国道10号線~椎田有料道路~国道10号線と進んで行く。
今回のランのために”うえちん”から借りたクルマの走りはなかなか良かった。私の軽バンと比べれば、排気量が3倍も違うとあって、その走りは雲泥の差であった。姐御は、クルマを貸してくれた”うえちん”のことを「ええ人やね。」と言っていたが、それは違う。日頃から、私がよくこいつの世話をしているのだから、貸してくれて当然なのである。”うえちん”のことを知らない姐御は、そう思うのも無理はない。
でも、嫁さんや可愛い子供達に隠れて、陰で悪いことをしているこいつは断じて「ええ人」ではないのだ。むしろ、日頃の恩をクルマごときで返させてやった私の方が「ええ人」と言える。
まあ、そんなくだらないことはともかく、私達は休憩をするために”ぶぜん道の駅”に寄った。いつ寄っても人でごったがえしているこの駅に来たのは、1ヶ月前のこと。あの時は、涼しいながらも、まだどこか夏の余韻を残していた。だが、今は夏の余韻なんてものは無い。もう完全に秋であった。
秋を意識すると、何故か感傷的になる。特に今回は、第四弾の裏主役であるマス岡田が不在ということもあって余計にそうだった。暗闇の誰もいない寂しい空間の中、自動販売機の前で一人うずくまっていたマス岡田の姿を目の前の賑やかな空間に重ね合わせる。あの時とは、全く違う光景に尚更感傷的になる。やはり、こいつは漢塾にとって絶対必要な人材だということを思い知らされる。また、私にとっても単なるヘヴィメタルパートナーではないということも。ここを去る前に思った。
“マス岡田は、今でも地縛霊のようにあの自動販売機の前に貼り付いているのではないか。”と。ここは、私にとって、更に思い出深い場所になったようだ。
前回到達地点
本編での最終到達地点は、名も無きちゃんぽん屋なのに対して、リザーブでの最終到達地点は、そこより300mほど行ったところにある”Gooday”である。どちらにしようか迷ったが、300mぐらいの距離は大した問題ではないと思い、結局、”Gooday”にした。当初、ここへは午前10時前には到着して、午前10時頃にはスタートする予定だった。しかし、3連休の初日ということもあり、道が混んだため、到着したのは予定時刻を超えた午前10時20分過ぎであった。
予定より遅れたのは面白くないが、誤差が30分以内というのは、想定内といえば想定内。ここまで無事に到着できただけでも良しとすることにした。
スタート
各自に水分補給や食料補給、準備運動などをさせ、もうすぐ来るべきスタートに備える。ここは、萩から約180㎞の場所。今回の目的地である大分市のダイヤモンドフェリー乗り場までは、70㎞弱の距離。やっとここまで来たという感がある。
今回は、宇佐市内を過ぎれば、後は殆ど山中ということもあり、コンビニや店屋というのも殆ど無いであろうから、給水ポイントで休憩する時に出来るだけ食ったり飲んだりしておくよう皆に伝えた。準備を始めてから、5分あまりで皆の仕度が整ったため、スタート前の儀式である記念撮影を行い、各自スタートさせた。
とりあえずは誰も走る者はいなかった。各々が自分の体の動きを確かめるような、長時間のドライブで硬くなってしまった体をほぐすようなスローな出だしであった。
ポイント探し
私達がスタートした”Gooday”は、宇佐市でも一番端の中津市との境に近いところにある。よって、これから宇佐市内を縦断しなければならなかった。市街地を通る時に一番困るのが、クルマを停める場所を探すことである。
田舎町なら問題ないが、宇佐市のようなそこそこの規模の町なら、探しだすことは結構難しいのだ。これまでは市街地では、いつもホームセンターやスーパーの駐車場に停めていたから、今回も同じようにしようと思い、それらのものを探すのだが、今回は勝手が違った。
いくら探してもそれらのものが無いのである。パチンコ屋やら食い物屋やらはたくさんあるのにだ。そうやって探しているうちにもクルマのメーターの距離はどんどん伸びていった。
やっと、広い駐車場のあるスーパーを見付けたと思ったら、そこはスタート地点から8.3㎞も離れた場所であった。姐御には、”5~6㎞おきに給水ポイントを設けておくから。”と伝えていたのに、さすがにこれはオーバーし過ぎている。
少し戻ってやろうかとも考えた。だが、まだスタートしたばかりで体力も有り余っているし、夏とは違って涼しいから、喉が渇くこともなかろうと思い、やめた。いや、実のところ、戻るのが面倒臭かったことが一番の理由であった。
第一給水ポイント
私が給水ポイントに到着してから、ほどなくして変態小野が給水ポイントへ入ってきた。その5分後には達ちゃんも続いた。私が到着したのと、そう時間が変わらないということは2人ともかなりのペースで走っていることになる。
特に変態小野は、これからもハイペースで走り続けるであろうから、後の2人を待つ時間を考えると、もしかすると、こいつと会うのはこれが最後になるのではないかと思った。こいつには予め言っておいた。「速く走りたければ速く走ってもええけど、わざわざお前を追いかけて行くようなことはせんから、50㎞ぐらい行ったと思ったところで待っとけよ。」と。だから、こいつもある程度は、別れを覚悟していたはずである。
さすがの無責任な私も、ここでお別れしては可哀想だと思い、「今のうちに食えるだけ食っておけよ!」と、食い物を変態小野にすすめた。だが、変態小野は「今は、あまり欲しくないです。」と言い、水分補給だけして走り去った。”これで変態小野ともゴールまで、いやもしかすると連休明けまでお別れか。”とマジで思った。
変態小野が走り去ってから5分後にぢよん○○と姐御が到着。ランも序盤ということもあり、2人とも元気があった。おまけに食欲もあった。
追いつく
ぢよん○○達と別れた私は、変態小野達を追った。意外にも、ぢよん○○達との時間の差がなかったために、”もしやこれは変態小野に追いつけるかも?”と思った。だが、行けども行けども変態小野の姿は見えない。
前回給水ポイントから2㎞行ったところで達ちゃんを抜いたが、変態小野は更にそこから2㎞行ったところを走っていた。私は、こいつの走っている姿を殆ど見たことがなかったが、いざクルマを運転しながら見ていると、これがなかなか速い。足の回転は遅いものの、長身に長い足という身体的アドバンテージを活かした大きいストライドでのゆったりとした走り。足の短い私には、とても真似できない走り方だ。
変態小野を抜き去った私は、更に3㎞ほど走ってクルマを停めるのに適した空き地を見付け、そこを第二球水ポイントとした。
第二給水ポイント
私が給水ポイントに到着してから、10分ほどで変態小野が到着した。もしかすると前の給水ポイントでお別れかと思ったのだが、幸いなことに、この時点では全員のペースの差が思ったより小さかったので、嬉しい再会となった。だが、こいつと後続との距離を考えると、これが最後の給水になることは、まず間違いなかった。
それが分かっていた私は、「とにかく欲しくなくても、今のうちに食えるだけ食っておけ!もうこれがお前と会う最後なんやから。」と、変態小野に言った。こいつもそのことを良く分かっていたから、「今のうちに食べておきます。」と言って、積極的に食い物にガッついていた。
変態小野が到着してから15分後に達ちゃんが到着。3人でしばしの歓談をした後、2人は去って行った。変態小野とは、これがマジのお別れであった。
私は、「ゴールまで私達と会わないのが寂しければ、途中で歩くなり休憩をするなりして時間を調整しろよ。」と、言っておいたのだが、走ることの好きなこいつが、それをすることはまず無いと思った。こいつは気のむくまま、自分の走りたいように走っていくことだろう。
普段、走る練習もしないのに50㎞でも60㎞でも簡単に走り通してしまうこの男の才能を私は、どんなに羨ましいと思っていることか。この男が、継続的な練習をすれば、どんなに走るのが速くなることか。
そして、どんどん小さくなる変態小野の後姿を見守りながら、私は思った。”走るだけじゃない。こいつにはたくさんの才能がある。だから、神から与えられた自分の才能に早く気付くべきだ。”と。こいつの最大の長所である謙虚さが、気付くことの邪魔をしているんだろうけど、自分の才能や可能性に気付けたら、こいつはもっともっと幸せになれるんじゃないだろうか。
待つ
変態小野達が去った後に、ひたすら残りの2人を待つ。私は、もともと短気な性格。待つことは嫌いだった。
パチンコ屋の新装開店で、前日の晩から待ったりもしたこともあるが、あの時は気が狂いそうになったし、相手が理由もなく約束の時間に遅れたりすると、激怒して喧嘩になることもしばしばあった。だから、今まではクルマで伴走するよりは、肉体的、精神的にキツくとも歩く方を望んでいた。
だが、漢塾ランもリザーブランを含めて今回で14回目。これまでにひたすらに”待つ”ということを繰り返してきたおかげで、”待つ”ということが苦にならなくなってしまった。いや、そればかりか、逆に”待つ”という作業を楽しむようになった感さえある。これから来る相手のことを思う、安心を願う、いろいろなことに思いを馳せる、寝る、本を読む、筋トレをする、腹ごしらえをする等。やることは無限にある。待つ間に何をするのも私の自由だ。いつからかは分からないが、私は”待つ”ための時間を与えられたものとして、それを感謝して有効に使うようになっていた。
漢塾ランのクルマの伴走という役は、この私を”待つ”ことのできる人間に成長させたのである。待つこと20分、ついにぢよん○○が。それから遅れること10分、ついに姐御が到着した。2人ともまだまだ大丈夫の様子。自分のペースをしっかりと守って歩を進めて行く姿は力強かった。
第三給水ポイント
ぢよん○○達を見送ってからすぐに、達ちゃんを追いかけた。達ちゃんを前回給水ポイントから4㎞進んだところで発見。そこから1㎞先のトラックがたくさん停まっている道路脇の空地を第三給水ポイントとした。
10分もすると達ちゃんは来たのだが、私がクルマを停めている側とは反対側の歩道を歩いているために、私に気付かない。大声で4~5回ぐらい叫んでようやく私に気付き、私の方へ来た。ここが大体半分くらい進んだ場所であることを告げると、「まだ先は長いですね。」と達ちゃんは言った。だが、回を重ねるごとに足への負担が減っている達ちゃんだから、気持ちの上でそう思うだけであって、体力的、肉体的には問題なかった。
達ちゃんは小食だ。大食いの私と比べてはいけないのだが、普通の人と比べても少し食べるのが少ないのではないかと思う。実際に、朝食も少なかったし、これまでの給水ポイントでも食べ物をあまり口にしていなかった。
いくら、体重が軽くて消費カロリーが少ないとはいえ、これからランの後半にかけては体力の消耗が激しくなるため、私は、”欲しくなくても、少しでいいから食っておけ。”と、食い物を勧めた。達ちゃんは、食べかけの菓子パンだけを口にし、タバコを一服してから去って行った。
気配りが出来て、小さいとこにも良く気がつく男である達ちゃん。こいつに”漢塾ランをやってみないか?”と、声をかけたのは適当な気持ちからではない。達ちゃんにこそ、漢塾ランが必用、そして私にも漢塾にも達ちゃんが必用と思い、声をかけたのである。達ちゃんは、予想以上のものを私に見せてくれている。職場で話すだけでは決して分からないものが、漢塾ランを通すと分かる。何事にも一生懸命やる達ちゃんは、ここまでのランで見事に本来の自分を顕現していた。
この後、ぢよん○○が私が本を読んでいる間に通り過ぎ、姐御はやはり達ちゃんと同じように反対側の歩道を歩いており、まだ休憩する必要がないと判断したからか、そのまま行ってしまった。結局、この給水ポイントへ寄ったのは、達ちゃん1人のみ。これまでで一番寂しい給水ポイントになってしまった。
意義
次なる給水ポイントを求めてクルマを走らせる。ここは、宇佐市の次にある山鹿町。山中を抜けてからは、大きく開けた田園風景が広がる。雲一つない秋晴れの空と田園のコラボレーションは、溜息が出るほどに美しい。この素晴らしい景色の中を塾生達は今回の目的地へ向けて黙々と進んでいる。
“今回の目的地へ向けて”とはいえ、今回の目的地は誰も知らない。いや、この私でさえ知らないのである。いつもと同じく、43㎞を過ぎたクルマを停めるのに丁度良い場所が、ゴールという設定なのだ。塾生達には、”ゴールは、おそらく別府の手前。”と、アバウトにしか言ってない。よって塾生達は、目的地が分からないから、ただ黙々と進むしかなかないのである。
“何も決めないこと。”このことが、私達を鍛える。最終目的地が決まっているだけで、事前に休憩する場所も、どこまで行くかも決まってない一見アバウトとも思える漢塾ランの意義は、そこにある。
選定ミス
美しい田園風景に見惚れているうちに達ちゃんを抜き、そのまま行き過ぎてしまう。第四給水ポイントに選定したホームセンターの駐車場は、先ほどの給水ポイントから9㎞も離れていた。ぢよん○○も姐御も先ほどの給水ポイントをとばしているから、これは離れ過ぎだと思った。また来た道を戻るのは、面倒臭いし、ガソリン代も勿体なかったが、姐御に殴られるのが恐かったので、やむを得ず戻ることにした。幸いにも、3㎞ほど戻ったところに先ほどは気付かなかった道の駅もどき?を見つけることが出来たので、そこを第四給水ポイントとした。
バラソフト
私が道の駅もどきにクルマを停めてから、すぐに達ちゃんが到着。お互いに距離の確認をした。私が、「この辺りで大体26~27㎞やど。」と、言うと達ちゃんは、「僕は25㎞~26㎞と思ってました。」と、答えた。達ちゃんの言う距離は、ほぼクルマのメーターの距離と同じであった。なかなかいい線をついてるなと思ったのだが、タネ明かしをすると、どうやら道路脇の”門司より○○㎞”と書かれた標識をコンスタントに見ていたようなのだ。
さすがは達ちゃん。歩きながらも、いろいろなところに意識をやっているものだと感心した。その達ちゃんは、水分補給と一服だけして、足早に去って行った。
そして、後続の2人を待つ間に私の目についたのが、”バラソフト”と書かれた看板。道の駅もどき内の店で販売されているらしいのだが、大いに気になった。元来、甘いもの好きな私。普通のソフトクリームでも腹が減っていたら、買うかもしれない。それが、バラの味のする味なら、尚更である。
バラの味とはどんな味であろうかと思い、買ってみようかと思ったのだが、塾生達が苛酷なランを行っている最中に私だけが、のうのうとソフトクリームを舐めているわけにはいかない。でも、バラの味にはとても興味があるから、そう簡単に諦めることが出来ない。
そこで、私が考えたのが、ぢよん○○と姐御にそれを勧めて、私もそれにあやかって一緒に食うというプランだった。これなら、私だけが食うわけではないから、気兼ねをすることもない。そう考えた私は、さっそくそのプランを実行するべく2人が来るのを待った。
ぢよん○○来る
達ちゃんが去ってから、10分後にぢよん○○が到着。スタートからの距離が25㎞を越え、相当足が痛んだのだろう。片方の足を引き摺るような変な歩き方をしていた。殆どの人間は、左右両方の足に等しく体重をかけて歩いてないので、長い距離を歩くと、どうしても体重を多くかけている側の足が痛むようになる。そして、その足を庇おうと、もう片方の足に体重をかけると、今度はその足も痛むようになり、結局、両足とも痛めるようになってしまう。なるべく足を痛めないようにするには、日頃の鍛錬も大事かもしれないが、何より大切なのは両足に等しく体重をかけた正しい歩き方をすることなのである。
ただ、こいつの場合、親父さんが腕の良い整体師ということで、よほど足が痛ければ親父さんに翌日にでもマッサージをしてもらえばいいから、少々足を痛めても問題はないように思われた。
到着したぢよん○○に声をかける。
私「足は痛むか?
ぢよん○○「痛くなったけど大丈夫です。」
私「腹は減らんか?」
ぢよん○○「大丈夫です。」
私「遠慮するな!あそこの店で何か買おうか?あっそうやソフトクリームがあるど!俺が買うてきてやろうか?」
ぢよん○○「いや、要りません。ジュースでいいです。」
内心”ちっ!ジュースかよ。それじゃあ俺がバラソフト食うわけにはいかんじゃねえかよ。”
私の懸命の勧めにも関わらず、ぢよん○○はジュースを選んだ。
“体がデカいくせに、ソフトの1個や2個ぐらい食えんのかよ。”と、思ったが、欲しくないものを私の都合のために強要することは出来ない。用無しのぢよん○○をさっさと送り出し、次に来る姐御に期待することにした。
姐御来る
ぢよん○○が去った15分後に姐御が到着。好奇心旺盛で、食べることの好きな姐御なら私の呼びかけに同意してくれるものと期待を込めて、姐御に声をかけた。
私「お疲れ。しばらく休憩しとらんかったから、腹が減ったやろう。あそこの店にいろいろ売っとるから、行ってみんかね。」
姐御「そうやねぇ。あまりお腹は空いてないけど。何かええものがあるの?」
内心”おっ!食いついてきたな。これはいけるかもしれんぞ!”
私「あそこの店にバラソフトという、バラの味のソフトクリームがあるんやけど、どうかね?」
姐御「バラの味?へぇ、興味あるけど、今は欲しくないね。」
内心”えっ!嘘ぉ!なら一緒に売っている手作りコロッケを勧めてみるか。それなら、俺がバラソフトを食ってもおかしくはないやろう。”
私「それなら、手作りコロッケもあるけど、どうかね?」
姐御「今は欲しくないんよ。水だけでええよ。」
内心”マジ?姐御がそんなこと言うなんて!これじゃあ、バラソフト食えんやん。”
私「そ、そうやね。残念やけど、欲しくないなら仕方がないよね。」
姐御は水だけ飲んで去って行った。
姐御ももしかしたら、バラソフトに興味はあったのかもしれない。だが、そんなものに手を出していては、ランに対する集中が切れてしまう。だから、私の勧めを断ったのかもしれない。”さすが姐御、格好良い!”と、思うと同時にあてが外れたため、少し落ち込んだ。
だが、すぐに”私には、塾生達のランの手伝いと道中の安全を守るという大切な仕事があるのだ。何よりもこれが優先!”と、気持ちを切り替えた。未練にも似た思いを残して私も道の駅もどきを後にした。いつかまた、ここでバラソフトが食えることを願って。
黄昏前
午後3時を過ぎて、雲一つ無かった青い空が薄っすらと白んできたのが分かった。今は11月。午後5時を過ぎると日が暮れて暗くなる。空もどうやら黄昏を迎えるべく準備をしているみたいだった。そのせいか、気温も少し下がってきたようで、少々肌寒く感じた。人は、辺りが暗くなると、寒くなると、明るくて暖かい場所を求めるようになる。暖かい場所は確保するのは無理だが、せめて明るい場所と何か温かい食べ物をと思い、次の給水ポイントはコンビニかスーパーの駐車場にすることにした。
だが、私がクルマを走らせているのは、山間の盆地であり、結構な田舎である。こんなところで、スーパーやコンビニを見つけるのは、かなり無理があった。走れども、走れどもコンビニどころか店屋さえ無い始末。メーターの距離も前回給水ポイントから6㎞を越えてしまった。”これは、もうしばらく行かなければ無理かも。”と、思った時のことだ。あったのだ。反対車線側の方にではあるが、コンビニがあったのだ。駐車場も広く、給水ポイントとするには申し分ない場所だった。ただ、塾生達が歩いている側からは、反対側であり、道路から少し下っている場所にあるコンビニなので、私がクルマを停めていることは、かなり分かりにくい。よって、塾生達には予めここのコンビニに私がクルマを停めていることを連絡しておいた。
ここはスタートしてから32㎞の地点。残り12~13㎞。これから急激に暗くなることや、そうなるとクルマを停めるのに適当な場所を探すのが難しくなることを考えると、ここが、最後の給水ポイントになる可能性もあった。
ガッつく
私が到着してから30分後に達ちゃんが到着。”ここが最後の給水ポイントになるかもしれんから。”と言い、達ちゃんに何か精のつくものをガッつくようにと、コンビニの中に連れて行った。達ちゃんが買ったのは、フランクフルトソーセージだった。これまで、菓子パンぐらいしか食ってなかったのだから、他にも何か買えばよいのにと思ったのだが、それでもこの温かくて油ギッシュな食い物は、達ちゃんの胃と満足感を満たすには十分なようであった。
達ちゃんが去ってから、20分後にぢよん○○が到着。足の痛みで、食い物どころではないらしく、ジュースだけ飲んで去って行った。ぢよん○○が去った7分後に姐御が到着。姐御がクルマまで歩いて来るのを観察していたのだが、驚いたことにぢよん○○と違い、足を引き摺っているような動作が見られなかった。少しは足も痛んでいるとは言っていたが、ぢよん○○の歩き方と比べると、痛々しさは雲泥の差だった。
これは、姐御が通っている整体で、体のズレを矯正し、正しい歩き方を教わった?その効果によるものらしかった。何でも、前々回の漢塾ラン第三弾に参加した時に、体の片側に重心が偏っていることを痛感されたらしく、それでそれを改めようと整体通いをするようになったのだとのこと。
自分の悪いところをすぐに改めようとする、潔さと行動の早さには驚いた。実際に、その効果がこうやって漢塾ランで実証されているのだから、すごい。この人は、謙虚だ。それでいて、いつも自分を改善、向上させるべく努力をしている。また、人間がすごく真っ直ぐだ。良い意味での”男らしさ”さえ感じさせる。今でも、私が姐御のことを先輩と慕う理由はここにある。
今度は、私が”何かを食べたい”という下心を持たずに、ただ純粋に温かいものを食べて身も心も温めてもらいたいという気持ちで、食べ物を勧めた。私の気持ちを本能的に察したのか、ここで姐御は肉まんをチョイス。それしきのもので、本当に身も心も温まったかどうかは分からないが、「おいしい!」と言って食されていたので、それなりに満足されたのではないかと感じた。
ゴールまであと少し。次なる私の仕事は、ゴールの選定であった。
コール
実は、先ほどの給水ポイントで、変態小野より「ゴールが分からないから、別府駅まで行って待ってます。」と、電話をもらっていた。
他の者のことに気をとられていたので、すっかりこいつのことは忘れていたのだが、コンビニを発とうとした時に、またこいつから電話が入った。どうやら完全に山から抜けて海岸沿いに出ており、もうすぐ別府に着きそうだとのことだった。「別府駅で待ってます。」と言う変態小野に対して、私は「進行側の大きい駐車場のある目立つ場所で待っとけよ。」と、指示した。そして、到着したら再度電話するようにとも伝えた。
今回は、おそらく別府の手前がゴールになるであろうから、行き過ぎである。多分、10㎞以上は行き過ぎだと思う。まあ、毎度のことだし、いくら走っても足の痛まない変態小野であるからして、心配はしてなかった。
「ただでさえ、風貌が怪しいのやから、ウロチョロして他人に怪しまれんように気をつけろよ!」とだけ最後に言って電話を切った。
“何時間も私達を待たなければならなくなるのに、何で速く走るのかねぇ。”と呆れながらも、コンビニを発った時には既に変態小野のことは忘れていた。
最終給水ポイント
コンビニを発って、姐御を抜きぢよん○○を抜き、更にしばらく行って達ちゃんを抜いた。姐御とぢよん○○の間の距離は確実に縮まっているように感じた。私の進行方向側には、クルマを停めるような場所は無かった。残りの距離を考えると、給水ポイントは設けなくてもよいような気もしたが、ゴールに向かって必死に頑張っている塾生達を出来るだけ労いたいと思ったので、諦めずに探した。
そして、コンビニから行くこと約7㎞の場所で、反対車線側ではあるが、かなり広い駐車スペースを見つけることができたので、クルマを停め、そこを最終給水ポイントとした。そこは、ハーモニーランドの真ん前。赤松温泉の入口であった。
ハーモニーランド
塾生達を待つ間に、目の前に広がるハーモニーランドの全景を眺めた。敷地内の芝生や木々は綺麗に手がかけられており、ホテルのように大きい建物や、観覧車、モノレールみたいな乗り物まである。思っていたよりは、立派な施設であった。
大分市の兄貴のところへ行く時は、当然ながらいつもハーモニーランドの前を通る。マウンテンバイクで大分市に行った時もここを通った。もう何十回もここを通っている。なのに、ハーモニーランドの全景をじっくり見るのは、これが初めてであった。
萩では、ハーモニーランドは結構有名である。私の職場でもここのパンフレットなどがたまに回覧で回るから、目にすることは多い。興味はあるから、今度、嫁さんと一緒に来てみようかと思った。ちなみに、どうでも良いことだが、私はクルマの中で姐御か達ちゃんに本当の名前を教えてもらうまでは、ハーモニーランドのことをキティランドと思い込んで、実際にその名前を口にしていた。冗談ではなく、マジで。
黄昏
私が、ハーモニーランドの前の空地にクルマを停めたのは、午後5時前。この時期では、もうそろそろ暗くなる時間帯である。
半袖一枚の薄着で、外で塾生達を待ち続けるのも寒いため、クルマの中で待つことにした。前日は、十分に睡眠をとってなかったのだが、シートに倒して仰向けになっても、不思議と眠たくなることはなかった。と、なると目につくのは、刻一刻と漆黒に向かって色が変わっていく空や周りの様子だった。
それを見ながらいろいろなことを考えた。だが、どんどん周りが暗くなっていくのに考えを巡らせても、寂しい方へ、虚しい方へ行ってしまいがちになるので、途中でやめた。しばらくは、何も考えずに死んだように動かなかった。ただ時間だけが過ぎていく静寂の空間。もはや、塾生達のことは頭になかった。
記念撮影
私を無意識の世界から連れ戻してくれたのは、達ちゃんであった。達ちゃんは、私と再会するやいなや、「あとどれくらいですかねぇ。」と聞いてきた。その問いに私は、「ここが40㎞の手前ぐらいやから、あと4~5㎞。約1時間ぐらいでゴールやな。」と、答えた。
それを聞いた達ちゃんの表情は明るくなった。先が見えたことで、いくらか気が楽になったのだろう。ここまで来るのには、かなり気が張っていただろうから、そうなるのも当然だった。
更に達ちゃんは私に問いかけた。「あれがハーモニーランドですか?」と。なんでも、友人宅で、友人家族がここへ遊びに来た時の写真を見たらしく、しきりに「へえ、これがねぇ。」とか言って感心している様子だった。
興味は無いだろうけど、実物を目にしたのが嬉しかったのだろう。ランに没頭している時の達ちゃんとは、また違った、お茶目な面を見れたような気がした。達ちゃんの気持ちを察した私は、ハーモニーランドをバックに記念撮影をすることを提案。かくして、達ちゃんは、ハーモニーランドと一緒に写真に写ることになった。
残念ながら今回はここへ行くことはないが、いつかまた達ちゃんの子供達を連れて来てやったら、子供達も喜ぶし、自分も楽しいのではなかろうか。
一報
達ちゃんが去った後すぐに変態小野から電話が入った。どうやら、別府タワー近くのセブンイレブンに到着したらしかった。分かり易い場所ということなので、そこで待っているよう指示した。
ハーモニーランドから別府市内までは、15㎞以上離れているはず。今回も変態小野は60㎞近く走ったのだと感心したが、他の者達がまだここへ到着してないことを考えると、どう少なく見積もっても1時間半以上は待たなければならなくなるのは必定だった。こいつも、いつも先に給水ポイントに到着するなり、先にゴールするなりして、長い時間待つことを強いられている。だから間違いなく、こいつも”待つ”ことには慣れている。ランでいろいろなことを得て、それでいて”待つ”ことができるようになったのだから、一石二鳥である。
伊達に人より長く走っているわけではない。伊達に長く待っているわけではない。漢塾ランをすることによって、こいつが一番多くのものを得ているのではないだろうか。何となくそう思った。
自信
達ちゃんが去ってから20分ほどしてぢよん○○が到着。そして、いきなり仰向けに寝転がった。かなり、足を痛めているようであった。足を引き摺るような歩き方をしているのだから、そうなるのも当然と言えば当然。痛みも相当のものと思われたが、やはり今回も歩くことを止めようとはしなかった。
達ちゃんのように、2ヶ月おきのペースでランを行っていけば、ある程度歩くことに慣れて、痛みを患うことも少なくなるかもしれない。だが、こいつは1年ぶりのランで、しかも普段、運動というものを全くやっていないから、また最初から始めるようなものだった。
ただ、これまで全て完走してきたのだから、絶対にゴール出来るという自信があるように見えた。やはり、”経験は力なり”である。ぢよん○○は、わずかの休憩の後、痛めた両足を庇うためだろうか?足を踏み出す度に大きく真上に跳ね上がるという変な歩き方で、去って行った。その変な歩き方は、後ろから見ていて滑稽だった。
予想外
ぢよん○○が去った後、しばらく姐御は来ないだろうと思い、クルマの中に入って運転席に横になった。しかし、何となく姐御のことが気になったので、すぐに外に出た。そしたら、何と!姐御が私のいる空地とは反対側の歩道にいたのである。しきりに懐中電灯を振って、私に自分の存在を気付かせようとしている最中だった。
姐御が、こんなに早く来るのは予想外だった。ここへ来る時にぢよん○○と姐御の距離を見た時は、縮まってきているとはいえ、それでも結構離れていた。なのに、この時点では、おそらく200mもないぐらいに差が縮まっていたように思った。
確かに、足を痛めたぢよん○○は、ペースが落ちていた。だが、仮に姐御のペースが変わらないとしても、前回給水ポイントからここまでの7㎞ぐらいの距離で、ここまで距離が縮まることはないはず。
と、いうことはだ。姐御のペースが速くなっていたということになる。おそらく、これまではペース配分を考え、スピードをセーブしてきたのだろう。ゴールが近いことを悟り、本来の力を出してきたに違いなかった。姐御は、そのまま休憩することなく行ってしまったが、ランも最終局面にきての、この猛チャージは驚きであった。
ゴール選定
ランの最後に私に残された課題は、ゴールの選定作業であった。ハーモニーランドを少し行ったところで、今度は下るようになる。暗闇を下りながら、どこをゴールにしようかと考える。
残念ながら、適当な場所が見つからず、クルマのメーターだけが、どんどん進んで行く。大分には、何度も足を運んでいる私だから、この辺りには見覚えがあった。だから、この下りを下りきるまでは、適当な場所がないということも、おおよそ察しがついていた。
メーターはとうとうノルマである43㎞を越えた。おそらく、下りを下りきってしまうと、もう3㎞はプラスになるはず。そこまで行ってやろうかとも考えたが、ぢよん○○の足の痛み具合を考えて、それはやめることにした。
こうなれば、強引に路駐してやろうと思い、路側帯に幅寄せしようとした時に、都合良く幅2mほどのスペースが現れたので、そこにクルマを停めた。これまでで、最も中途半端な場所のゴールになってしまったが、ノルマの43㎞を越えさえすれば、どこでも良かったので、クルマを停めるスペースがあったことは有難かった。
ゴール
私が、ゴールを定めて、クルマを停めてから10分もしないうちに達ちゃんが来た。達ちゃんは、予想より早いゴールだと思ったのか、呆気にとられている様子だった。
ゴールして嬉しくない訳もないが、これが5回目のゴールとあって、「やっとランから解放される!」ぐらいの思いだったのだろう。達ちゃんの表情は淡々としたものであった。
それから達ちゃんから遅れること約30分で、ぢよん○○と姐御がほぼ同時に到着した。やはりというか、姐御はぢよん○○に追いついていた。姐御は言った、「私が後ろに迫っていることが分かると、ぢよん○○君は走るんよ。」と。抜かれたくないのは、ぢよん○○の男としてのちっぽけなプライドであろう。無愛想で、怪しい風貌のこいつにもお茶目なところがあるのだと、可笑しくも嬉しくもあった。
また、それを察して抜こうと思えば抜き去れるのに、敢えて抜くことをしなかった姐御の行為には、優しさを感じたのだった。
走行距離43㎞強という、これまでのランの中では最も短い距離になった今回のランだが、見るべきものも感じさせられるものも十分に多いランであった。ランを終えた私達の次なる仕事は、60㎞近くも走って今回もゴール出来なかった変態小野の回収作業であった。
ランを終えて
昨年の5月に第一弾を始めてからこの第五弾まで1年半あまり。出雲編の時もこれと同じくらい時間がかかったと記憶しているが、”ようやくここまで来ることが出来た!”というのが、正直な感想だ。塾生の顔ぶれも、人数も毎回違う。そして、当然のことながら作られる物語も毎回違う。今回は、前回のような楽しいハプニングは無かったが、それぞれがそれぞれの持ち味を発揮して、漢塾ラン大分編第五弾という 十分に素晴らしい物語を作り上げてくれたように思う。
まあ欲を言えば、今回のランに七味唐辛子的キャラのマス岡田がいてくれたらと思うのは、私だけかもしれないが。
何はともあれ、今回の第五弾を終えたことで、今年中に漢塾ラン大分編を完結させるという目標に目処が立った。終らせるのは寂しい気もするが、物語は、終らせなければならない。これが終らないと次がない。だから、何が何でも終らせる。
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