夏の終わり

どうせ俺は試合に出ることはないだろう!と、決めこんで3塁のコーチをしていたのだが、「おい!お前、代打に行け!」との監督の一言で、バッターボックスに立つことになった。

「今さら俺なんて出さなくていいのに!」と、思ったが、皆の声援を受けてバッターサークルに入ると、「よっしゃあ!場外ホームランを打ったろうやないか!」と、気が大きくなった。

左右をざっと見回す。私の力なら、十分に場外へ叩き出せる距離である。バッターボックスへ入る前に目をつむって、自分がホームランを打った姿をイメージした。場外へ叩き出して、皆の声援に応えながらゆっくりベースを回る自分の姿を鮮明にイメージすることができたので、「これはいける!」と、自信を持ってバッターボックスへ入った。

右打ちの私は、左足のつま先を立てて、バットを大きく振りかぶってボールが来るのを待った。一球目。ど真ん中のストライク。一球目は見送るというセオリーどおりだが、ど真ん中だけあって、「振っとけば良かった!」と、少し後悔。

相手のピッチャーの球は、速くもなく遅くもなく、打ちごろの球だった。「これはいける!」と、確信した私は、バットを更に後に大きく振りかぶった。二球目の予想は80%の確立でストレート。のはず。打つ気満々で、ストレートが来るのを待った。

ピッチャーが二球目を投げた。やはり、予想どおりのストレート。しかも、一球目と同じように今度もど真ん中。「これはもらったぁ~!おどれ死にさらせ~!」と、渾身の力を込めてバットをボールに叩きつけた。

カーン!と、甲高い音をあげて白球は青空の彼方に飛んでいくはずだった。はずだったのだが、現実は違った。ゴンッ!という鈍い音をたててボールはボテボテとサードに転がっていった。ホームランどころか、サードに届くのが、やっとぐらいの当たりだった。

どうやら、ボールがバットの真芯に当たらずにバットの下にかすったようだった。渾身の振りだったはずだし、気合いも入っていたのだが、いかんせんボールをバットの芯でミートするという技術が私にはなかった。

結局、私のチームは、よく健闘して引き分けに持ち込んだものの、ジャンケンで負けたため、一回戦で敗退ということになった。別に悔しくはないが、これが私の小学3年生から断続的に続いてきた野球人生の終りかと思うと、少し寂しいような気もした。

おそらく、既に終えているラグビーと同様に、これからも自分から野球をやりたいと思うことは、まずないだろうし、誘われることも、プレイする機会もないだろう。だから、これが最後である。

夏の終りとともに終わった私の野球。あのような終り方は、私らしいといえば私らしいが、やはりホームランは打ちたかった!


コメントを残す

メールアドレスが公開されることはありません。 が付いている欄は必須項目です