行方不明
目の前の惨状に立ちくらみがしそうになった。あるべきところにあるべきものがなかったのだ。テーブルの上に置いておいたはずの饅頭が見事に姿をくらましていた。
もしかしたら、こたつの上か食器棚の中かと思い探したが、やはりない。それもそのはず、確かに私はテーブルの上に饅頭を置いておいたからだ。朝、部屋を出る時も、テーブルの上の饅頭をしっかりと確認していた。
これを食うのを楽しみに仕事に精を出したのに、家に帰ったら饅頭を食って一息つこうと思っていたのに。私の楽しみは一瞬で崩れた。
饅頭の行き先は分かっている。愛妻のぽん太郎さんの腹の中だ。二人暮しである以上、それは120%間違いない。和菓子なんて滅多に食わないのに、10年近く一緒に暮らしてきて饅頭を食っているところなど殆ど見たことがないのに。それでも食ったとは、家の中に食い物がなくて、よほど腹が減っていたとみえる。
饅頭を見つけて食っている姿を想像すると、何だか微笑ましい気持ちになって、饅頭を食えなかった無念さは何処かへ行ってしまった。美味しく食ってくれたのなら、それで私も満足だ。次は何をテーブルに置いておいてやろうか?
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