愛すべき男

もうすぐ愛すべき男が職場を去る。

私と親子ほども歳の違うその男は、若い者達からは親しみの念を込めて、あだ名で呼ばれることもある。

私とこの男との付き合いは、この一年間だけ。趣味も考え方も全く違うし、親子ほど歳が離れているせいか、個人的に一緒に飲みに行ったり、プライベートで何か一緒することもなかった。よって、この男に対する特別な想いは無い。

ただ、この男は、いつも何か面白くないことや、気になることがあると、必ずといっていいほど私に耳打ちしてくれた。やる気を出させるためだとは思うが、こんな私を褒めてくれたり、励ますような言葉をかけてくれたりもした。

おかげで、自分が認めてもらえているような気がした。だから、特別な想いは無いけれども、この男には感謝の気持ちは抱いている。

マイペースで、アバウトで年下の者にも敬語を使う、ちょっと変わった男。

何か厄介なことがあると、「やれやれの!やれやれの!」と、いつも口癖のように言う男。

演歌と酒と女をこよなく愛する男。

見たところ何の取り得も無さそうな、ただのオヤジ。でも、そこいらに転がっている自分を良く見せることしか考えてない、つまらんオヤジ共とは違う。

この男は歳によらず、とても純粋。私にとっては、その存在自体が魅力的な男であった。

愛すべき男は、もうすぐ職場を去る。


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