特異体質

綾木という男がいた。ここでは、あえて本名を書く。

こいつは、いつも屁をこいていた。日にこいつの屁を5回ぐらいは嗅がされていただろうか。しかも鼻が曲がるほど臭かった。

小学校6年生の頃だ。運動会の練習の時だった。私は、こいつのすぐ後ろに座っていた。音もなく、こいつの尻周りから臭いが流れてきた。運悪く、こいつの座る位置は、私からは風上にあたった。

付け加えれば、こいつはすかしっ屁の達人であった。頻繁に人前で惜しむことなく屁を連発しているとはいえ、派手に音を出すことはなかった。しかし、派手な臭いのため、周りにはバレバレであった。

話を戻そう。

いつもの刺激臭かと思い、私は浅い呼吸をした。臭いを嗅ぎたくなければ、しばらく息を止めるか、その場から離れれば良い。それをすることなく、浅い呼吸をすることに徹したのは、大量に気管と肺に刺激臭を入れることなく、安全に、ほんの少しだけ臭いを嗅ぎたかったからである。私は、恐る恐る浅い呼吸を何度か繰り返した。

ところがである。いつまで経っても、あの嗅ぎなれた刺激臭が流れてくることはなく、その代わりに流れてきたのは、少し生臭さの混じったブルーベリーの香りだったのだ。ブルーベリーの爽やかな香りを幾らか残しながらもそれは、間違いなくいつもの嗅ぎなれた綾木の屁だった。

生臭ささと爽やかさは、同居出来ない。

ブルーベリーの香りは好きだが、こいつの屁の上に乗っかったものを嗅ぐのは、不快この上なかった。

綾木曰く。臭いの原因は、ブルーベリー味のガムを飲み込んだことだった。当時は、“ガムを飲み込んだくらいで、屁に臭いが還元されるか?”と、疑問に思ったものだが、少し賢くなった今なら理解出来る。

こいつは、食った物の臭いが、著しく屁に還元される特異体質なのだと。

こいつとは、小学校を卒業後、音信不通。こいつがどこへ行ったか、生きているのか死んでいるのかも分からない。あれから30年経つも、未だにこのような臭いの屁は嗅いだことがない。

こいつが私に与えたインパクトはとてつもなく大きいらしい。

故に、私にとっては空気のような存在であるこいつのことも未だに忘れられないでいる。

 

 

 

 

 


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