トラック綱引き競争

「しまったあ!デジカメ忘れた!」というのが、会場に着いた時の第一声だった。昨日から充電をして、あれほど忘れまいと意識していたのに、忘れてしまうとは何たる不覚。お魚祭りで、道は渋滞しているため、とても取りに帰っている暇はない。泣く泣くデジカメのことは諦めて、仕方なく写真なしのレポートにさせていただく。

 

トラック綱引き競争に出場するのはこれで2回目。2年前に出場したことがあったが、その時は全13チーム中7位という不本意な成績だった。その時の悔しさを晴らすため、今回は精鋭中の精鋭を集めた。その精鋭達の中でも、ズバ抜けて精鋭のサトシは体重120kgという巨漢で、2年前の大会でも優勝したチームの主砲だった強者だ。

サトシの他にも、体重100kgという我が漢塾で最重量を誇る浜田に、体重こそ80kg台半ばだが、学生の頃はラグビーでバリバリ活躍された吉田さんに、軽量ながらも、最近メキメキとパワーをつけた中村と塾長の私という豪華メンツで今大会に挑むことになった。

 

まずは、クジ引きから始まる。他のチームの様子を見たいので、なるべく後の順番がいいと思い、クジを引いた。「13番」ケツから2番目の好位置。しかも、13番という数字は私の最も好きな数字である。私の数字である13番を引いたことは、幸先が良いとも思った。

トラック綱引き競争は、10tトラックに結びつけられた綱を引っ張って、30mほどトラックを動かし、そのタイムを競う競技である。お魚祭りの中だけでなく、中国大会も開催されている由緒ある競技である。(優勝したチームは、中国大会への切符が得られるらしい。)

たかが、30mほどトラックをひくだけと思われるかもしれないが、これがかなりキツイ。あまりのキツさに途中で綱を引っ張る手を緩める奴も多い。また、体が大きい者や力の強い者が多いチームが有利かと思われるかもしれないが、そんな単純なものではない。いくら力が強くても、引っ張る5人の息が合ってなかったり、引っ張る要領が悪いと、良いタイムがでないのだ。逆に、力や体格が劣っていても、5人の息がピッタリ合って、引っ張る要領をえていると、良いタイムがでるのだ。それ故になかなか奥の深い競技といえる。

とはいえ、体力的にズバ抜けていると自負している私達の優勝は間違いないと思われた。が、そうは簡単にいかないようであった。前回の下関大会で優勝した下関のチーム(以下フグチーム「仮称」)が出場していたのだ。しかも、このチームの平均体重は、私達と同じか、それ以上はあるようであった。

漢塾とフグチームとの優勝争いになるのは誰の目から見ても明らかであった。フグチームは11番目の競技なので、とりあえずフグチームの競技をよく見てから競技に臨むことにした。

1チームの競技はだいたい1分もあれば終わるので、15分ぐらいでフグチームに順番がまわってきた。ピストルが鳴ると、すぐに綱まで走って行って統率のとれた動きで、綱を要領良く引っ張る。5人の息もぴったり合っている。かなり速い。それまで見たチームがかなり遅く見える。おかげで、あまり参考にする時間もないほどに、すぐにゴールしてしまった。

フグチームの競技を見て「う~ん!」と唸ってしまった。こいつらかなりやる!と思い、多少弱気になってしまったが、今回の漢塾チームは、精鋭をより集めているのだ。負ける要素など微塵もない。そう思うと、自信が湧いてきた。

フグチームの次の次の順番だったので、私達の出番はすぐにきた。所詮、遊びと思って小遣い稼ぎで参加した程度のことなのに、いざ自分達の出番となると、結構緊張する。まずは、円陣を組み、「いくぞぉ!」と気合いを入れて競技に臨む。

ピストルが鳴る直前は、ドキドキと鼓動が速くなっているのがわかる。パーンッ!という号砲で、一斉に綱の自分の受け持ちの箇所に走り寄る。ここで、アクシデントが起きた。私が自分の受け持ちの場所を間違えて、浜田とガッチンコしたのだ。お互い見合って戸惑うこと1~2秒。すぐに各々綱を持ったが、そのロスしたタイムが後で響くこととなった。

その時間の遅れを取り戻すかのように必死に引っ張る。おそらく、誰の目から見ても、私達が一番速いように見えたことだろう。息もピッタリ合っていた。トラックはスルスル動く。しかし、それでもトラックを引っ張ることの何とハードなことか。心拍数はバクバクに上がっているし、あまりもの高重量を引っ張るものだから膝にすごく負担がかかって痛い。

たかが30mだが、されど30m。引っ張っている間は、その距離がとてつもなく長く感じる。だんだん握力がなくなってきて綱から手が離れそうになるが、それでも最後の力を振り絞って綱を握る手に力を込める。あと10mあと5m・・・パーンッ!という号砲で、ゴールしたのが分かった。時間にしてわずか30秒そこらなのだが、5人とも力を出し切ったので、疲れ果てていた。

会心の引っ張りだったので、結果に自信はあったが、何となく先ほどのフグチームと比べると、勝ったかどうかは微妙なように思えた。結果は、女子の競技が終わるまで教えてくれないので、それまでドキドキしながら待たざるを得なかった。

ジュースでも飲みながら女子の部の観戦をしようかと思った時にフグチームの主将らしき人が「お疲れ様でした。」といってねぎらいに来てくれたので、少し話をした。フグチームの主将は、普段から筋トレをかなりやられているそうで、とても立派な体格をしていた。

アームレスリングもされていて、今年の県大会の無差別級でも準優勝されたらしく、それなら是非とも手合わせお願いしますということで、3本ほど勝負させていただいたが、1勝2敗で私の負けだった。やはり、県大会の準優勝者では、相手が悪かった。彼は強かった。

アームレスリングが終わった頃に、女子の部も終り、結果発表がされることになったので、大会本部に集まった。まずは、3位のチームが呼ばれる。当然、私達は2位以上は確定なので、2位からの発表を心待ちにして聞く。「呼ばれるなよ!まだ呼ばれんでいいからな!頼むから呼ばんでくれよ!」と、心の中で叫ぶ。

大会主催者の発表が続く。「2位は、惜しくも1位と0.6秒差により・・・・かんじゅく。」かんじゅくとは、私達のことだ。漢塾を「おとこじゅく」と読めなかったらしい。ガクッと片膝が落ちた。0.6秒差で負けたとは!やはり、あの時、私が自分の受け持ち場所を間違えて、浜田とお見合いした1~2秒が響いてしまったのだ。勝負にもしもはないが、あれがなかったら、0.6秒差をひっくり返して勝っていたのだ。

優勝は10万円の商品券、準優勝でも5万円の商品券がもらえるとはいえ、金の問題だけではない。優勝と準優勝の違いは、気持ち的にもはるかに大きい。準優勝よりも優勝の方がいいのだ。

優勝を狙っていたサトシも私もかなりガックリきていたが、それでも1人1万円の商品券がもらえるということで、気持ちを切り替えて「儲けた、ラッキー!」と思うことにした。

賞品の商品券をもらって、帰ろうとした時に優勝したフグチームとまた話をしたのだが、10万円の商品券は萩市内の限られた店でしか使えないということで、「どうしよう!」と困っていた。その商品券を換金してくれる店があるのはあるが、換金してもらうと2割ぐらい取られるので、それはやめて、美味いものを喰って、余った分は、何か買うなりして使い切って帰った方が良いとアドバイスしておいた。

他所から来た人に無理やり萩で使わせるのもどうしたものか。他所から来た人のことも考えて、賞品は現ナマにしていただきたいものだ。

フグチームの主将とは、今度は県内のアームレスリングの練習会場か県大会で会う約束をして別れた。トラック綱引き競争だけでなくアームレスリングでも負けて、負けずくめの一日であったが、不思議と気負いはなかった。それは、私にも私達にもリベンジできるだけの力量があると分かっているからだ。次は勝てるはずだ。

とりあえず、今は悔しさを紛らわすために、賞品の1万円分の商品券を有効に使わせていただくとしよう。


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