名残

今は叔母が所有しているものではあるが、以前、亡祖母の幼少の時の写真を見せてもらったことがあった。

祖母が幼稚園児ぐらいの頃のものであるから、今から90年以上前の大正初期のものである。

年季が入って、茶色くすすけたその写真には、祖母と祖母の2人の兄姉と曽祖父、曾祖母の5人が写っていた。もっと歳が離れた上の兄姉が他に3人いたらしいのだが、この時は歳の近い兄弟だけで写ったみたいだった。

おかっぱ頭で着物を着た可愛らしい少女からは、晩年の年老いた祖母を想像することはできなかった。

“婆ちゃんにこんな時があったんだ!”と、思うと同時に、当然のことだが、誰もが歳をとり、いずれは死に向かうことが悲しく感じられた。

それと、驚いたのが、曾祖母が日本髪を結っていたことであった。結婚式でヅラの日本髪は見たことがあるが、自前の毛で結ったのを見たのは初めてだった。

日本髪に着物の曾祖母の姿は、時代劇の女性の姿そのものであった。

曾祖母は、明治の初めの頃の生まれの人である。60年近く前に亡くなっているので、私は当然会ったことがない。私の父でさえ幼少の頃にしか会ったことがないものだから、曾祖母のことは良く覚えてないと言う。

祖母から聞いた話では、曾祖母が幼い時は、武士の残党で帯刀している者もいたという。武士の時代が終わって、間もない時代だから、隣近所のおじさんや爺ちゃんが元武士であったことも珍しくはなかったのだろう。

だから、曾祖母が生まれた明治という時代には、武士の時代の名残が多くあったのだ。

大正の時代にも、少なくなりながらも、それは確実に残っていた。

写真の曾祖母の姿は、それを如実に語っていた。


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