閉め出し
いつもより遅めに仕事を終えた私は、スーパーで晩飯の買い物を済ませてから家に帰った。
駐車場にうちのクルマが停めてあったことから、嫁が既に家に帰っていたことを、そして部屋の明かりが点いてなかったことから、既に嫁は就寝中であることを悟った。
うちの嫁は看護士。その日は、夜勤の日だった。
“こんなに早く寝るとは、おそらく晩飯を食ってないな。こいつが起きたら、すぐに飯が食えるように作っておこう。”と、思い、ドアを開けて家の中に入ろうとした。
ところがである。
ガコーンッ!という鈍い音をたてて、10cmほど開いたところでドアが止まったのだ。
“もしや!”と思った。
何と!嫁は、鍵と一緒にドアのフックまでかけてやがったのだ。
うっかりしてのこと。年に何回かはこういうことがある。
“また、やりやがったな。”ぐらいに思い、ピンポンを押した。
が、出て来ない。
“よく眠ってやがるな。でも3~4回も押せば出て来るやろう。”そう思い、何回か鳴らした。
が、出て来ない。
“よほど眠りが深いんやな。でも携帯を鳴らせばさすがに起きるやろう。”そう思い、携帯を何度か鳴らした。
が、携帯にもでない。
少々不安になった私は、ピンポンを押し続けながら携帯も鳴らし続けた。
おそらく30分ぐらいは、それをしていたと思う。
それでも嫁は私の呼びかけに応えてくれることはなかった。
気の短い私は、切れかかっていた。
少し遠慮してドアを蹴った。
ドアを壊さないよう、最小限の力で蹴ったためか、音が小さかった。
当然のごとく、それしきの音では、嫁は起きなかった。
「開けんかいや!ええかげんにせえよ!」と、大声で叫んで暴れまわろうかと思ったが、さすがに周りの人の目が気になって、それはやめた。
心の中で叫ぶだけにした。
しかし、それでは嫁に私の心の叫びが伝わらないと思い、叫ぼうとした言葉をそのままメールした。
眠っている嫁にそんなことして現状がどうにかなる訳でもないのだが。ただの私の悪あがきであった。
とうとう嫁を起こすのに疲れた私は、その場に立ち尽くした。
“これからどうしよう・・・。”茫然となって、どうするかを考えた。
嫁は、最低でも午後11時半を過ぎないと起きないはず。それまでには3時間以上もあるから、さすがに寒くて暇なので、ドアの前で待っている訳にもいかない。それに、ドアの前にずっとへばりついていると怪しまれる。
いろいろと考えた結果、面倒臭いが、実家まで帰ることにした。
寒い中、重い買い物袋をぶら下げて、チャリンコをこぐ苦痛よりも、これだけ私が頑張っているのに嫁が起きてくれない腹立たしさよりも、”鍵があるのに家の中に入れない””家まで帰って来て、何でまた実家まで行かなければならないのか。”と、いうやりきれない気持ちの方が大きかった。
夫婦仲が良いのに閉め出しを喰らうとは。
とほほ・・・。
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