人違い
ある球技の試合中でのこと。
「あっ!ごっつ君じゃないですか!僕のこと覚えてますか?」と、茶髪で大柄な男が言い寄ってきた。
“こんな奴知らんぞ。”と思いつつも、そいつの顔をまじまじと眺めた。
眺めれば眺めるほどに、どこかで見た覚えのある顔。
すぐに「おぉっ!お前、○川やないか!」と、叫んだ。
茶髪の男は一瞬、「えっ?」というような反応を示したが、私が思い出したことを一応は喜んだみたいだった。
「ごっつ君変わってないですね。相変わらずゴツいですね!嬉しいな!嬉しいな!」と言って、○川が体当たりをかましてきたので、その心意気に応えようと、こちらも体当たりをかまして吹っ飛ばしてやった。
試合後、私達は再会を懐かしんで、いろいろと話し合った。
私「○川よ、今こっちにおるんか?」
○川「母ちゃんが一人暮らしなので、最近こっちへ帰って来ました。」
私「お前、出身は田万川やなかったかいのぉ。」
○川「いえ、僕は元々萩市内ですよ。」
私「はぁ?嘘やろ!お前、下宿しとったんやないかいのぉ。」
○川「いいえ。学校は家から近いから通ってましたよ。」
○川「ところで、○○君がこっちにおるの知ってます?」
私「おお、何回か会ったけど、何でお前があいつを知っとるんや?」
○川「何でって、同じ野球部やったやないですか。」
私「えっ!野球部?ラグビー部じゃなくて?」
その後もしばらく話すも、話が噛み合わない。おかげで、目の前の奴が○川ではないということには気付いたのだが、こいつの名前がどうしても思い出せなかった。
顔に見覚えがあるから私が高校までに関係した奴であることは間違いない。しかし、今さらこいつに名前を聞くような可哀相なことは出来なかった。
結局、こいつと別れるまで、こいつの名前を思い出すことはなく、違っていると分かっていながらも行きがかり上、他人の名前で呼び続けてしまった。
私がこいつの名前を思い出したのは、家へ帰ってからのこと。
こいつが発した”同じ野球部”という言葉で思い出したのだ。
こいつの名前は○川ではなく、○谷。22年ぶりに再会する中学の時の野球部の1つ下の後輩である。
坊主頭だったのが、今は髪は茶髪でロン毛だわ、体格は2回りも3回りも大きくなっているわで、当時の面影が全く無いから、すぐに思い出せないのも無理はなかった。
それにしても、他人の名前で呼び続けるなんて悪いことをした。
今度会ったら。
缶コーヒーでも奢ってやろう。
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