思い出
季節はちょうど今頃。
叩きつける雨、青臭い緑の匂い。
踝まで浸かりそうなほどに芝のグランドに張った水溜まり。
その中で行われた熱戦。
小学6年生の時、少年サッカー全国大会の行われる東京の読売ランドを目指していた私達は、激戦の地区予選を制し、100以上ある県内のチームの中でも4チームしか出場することの出来ない県の決勝大会に出場した。
準決勝で私達が対戦するは、何年か連続で全国大会に出場をしている常勝チーム。いつもなら、3点以上は点差がつくほど私達とは力の差のあるチームなのだが、この時ばかりは違った。
“ここまで来たからには何が何でも、読売ランドへ!”という執念にも似た強い気持ちがプレイに影響し、そして水溜りのグランドが私達に味方したのである。
読売ランドへの強い気持ちは、ボールを持った相手に私達を執拗に喰らい付かせた。普段なら諦めてしまうような場面でも、私達はボールを追うことを諦めることはしなかった。
また、水溜りのグランドは、技術で上回る相手の技術を殺いでくれた。フェイントもドリブルもロングパスも出来ない状態では、とにかくボールを前に蹴ってそれを追い、相手がボールに群がってきたらそれを弾き飛ばし、最終的には体ごとゴールに入るつもりでやるしかない。
云わば肉弾戦。おかげで、気持ち以外の面では劣る私達でも対等の勝負が出来た。
だが、その代償は大きかった。
抵抗の大きい水溜りのグランドを全力疾走するからいつも以上に体力を消耗するわ、強い相手であるが故にいつも以上に気力を消耗させられるわで、試合が終った時はボロボロであった。
試合結果は、延長戦まで行ったか行かんかったか、スコアも1-0やったか2-1やったかは覚えてないけれども、点差のつかない均衡した良い勝負であったことは覚えている。
その時は、負けて読売ランドへ行けなくなった悔しさと、自分たちより遥か格上のチームに健闘した嬉しさが入り混じった複雑な心境であったが、今となっては一生の良い思い出である。
あれから25年、この歳になるまであれほどの気迫を持って何かと対峙したことは、残念ながら無い。
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